「働くとは『Create』だと思うの」映画字幕翻訳者・戸田奈津子さんに聞く、人生100年時代を生き抜くための仕事哲学

2022/06/15
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「人生100年時代」といわれる昨今、ビジネスパーソンが現役で働く期間は徐々に長くなっています。生涯現役で活躍し続けるための秘訣はなんでしょうか。

『地獄の黙示録』『E.T.』『インディ・ジョーンズ』など数々の大ヒット映画の字幕を担当した映画字幕翻訳者の戸田奈津子さんは、40年以上もの間、業界の第一線で活躍されてきました。

学生のころから好きだった映画と英語を仕事にした戸田さんのキャリアは、現代のロールモデルの1つと言えるでしょう。

今回は、戸田さんの人生を紐解きながら、好きなことを仕事にするための考え方、人生100年時代に長く活躍し続ける秘訣に迫ります。

人生のモットーは「嫌なことはやらない」

戸田さんのこれまでのキャリアを教えてください。映画字幕翻訳者として活躍されるまでに20年かかったと伺いました。

大学卒業後は、新卒で生命保険会社に就職しました。学生時代から映画字幕翻訳者になりたいと思っていましたが、非常に特殊な仕事で、チャンスがなかなか来ないことも分かっていたので、とりあえず生活費を稼ごう、と。

その会社は、待遇がとても良く、施設も綺麗。月給も男性と同等で理想的な職場でしたが、私にとっては我慢できない環境でした。やりたいわけじゃない仕事を、決められた時間通りに繰り返す「自由のない生活」が本当に窮屈で……。我慢できず、1年半で退職したんです。

将来への不安や、まわりから反対の声はありませんでしたか?

もちろん不安はありましたよ。先がどうなるか、まったく見えないから。

でも、無駄でつまらない仕事に時間を使うほうが、よっぽど嫌でした。「もし、映画字幕翻訳者になれなかったとしても、飢え死にするわけない」と、思い切って飛び出したんです。

50年以上も前の話ですよ。当時は「女性は家庭に入る」のが一般的でした。母からは結婚してほしいと言われましたが、やりたい仕事以外には興味が持てなかったので、徹底して反抗しました(笑)。私は昔から、「嫌なことはやらない」をモットーにするわがまま人間なので。

退職されてからは、どのようなお仕事をされてきたんですか?

経験もツテもない私が、すぐに映画字幕翻訳の仕事に就けるわけはなく、なるべく近い領域の仕事をしようと、英語→日本語、日本語→英語翻訳のアルバイトをしていました。

映画界に携わるきっかけができたのは、大学卒業から10年経ったころ。当時、アメリカの映画会社の宣伝部長だった方から、来日する映画関係者の通訳を頼まれたんです。英語を使う仕事をしていたとはいえ、外国人と話した経験のない自分に務まるとは思えませんでした。

しかし、この仕事を断ってしまったら、映画字幕翻訳者への道も絶たれてしまうかもしれないと、仕方なく受けることに。大勢の前での通訳は恥のかきっ放しでしたが、今思い返せば、そのおかげで映画界のビッグな方々に出会えた。

そうした紆余曲折を経て、少しずつ字幕翻訳のお仕事もいただけるようになりました。アルバイトと並行して、年に1、2本の翻訳をするようになって数年、大きな転機が訪れたんです。

『地獄の黙示録』のフランシス・コッポラ監督が来日する際に、ガイド兼通訳をしたのがきっかけとなり、この大作の字幕翻訳を担当させていただくことになりました。それを境に、他の映画の仕事も舞い込むように。大学卒業から20年かかって、やっと念願の映画字幕翻訳者として生きていけるようになったんです。

なぜ、20年間も諦めないで挑戦し続けられたのですか?

他に選択肢がなかったんですよ。映画字幕翻訳者以外にやりたいことなんて、何もない。他の仕事に就こうと思ったことは、一度もありません

その気持ちは、その後もずっと変わりませんでした。「やっと願いが叶った」「求めていたものが手に入った」と、嬉しくて嬉しくてたまらなくて。毎週1本、映画の字幕翻訳をするという多忙なスケジュールすら、苦に感じることはなく、ずっと充実感を感じながら働いてきました。

「失敗すらも覚悟する」から、夢を追うことができる

充実感を感じながら長く活躍するために、なにが大切だと思いますか?

自分の好きなことを仕事にすること。それが何か、自分で考えて、自分で決断することが大切です。

最近はインターネットも普及して、「こう生きるのが正解」「こう生きないと損する」とか、外から聞こえてくる雑音も多いでしょう? もちろん人の意見を聞いたり、本を読むのも良いけれど、最終的には人の真似なんかせず、自分で進む道を選ばなきゃいけない。

自分で決めるとは、「失敗すらも覚悟する」ということ。仕事でも恋愛でも、自分がやりたいことを追い求める人生は、「成功するか失敗するか、​​五分五分のギャンブル」みたいなものなんだから。

よく「夢を追え」って言うでしょう。でも、私は「夢だけ見ててはだめ」だと思っています。甘いほうばかり見ていたら、失敗した時、挫折感で立ち上がれなくなる。叶わない可能性も受け入れて、初めて、夢を追うことができるんですよ。

かく言う私も、映画字幕翻訳者になれない未来も想像していました。「もし、仕事がなくなったとしても、ゴミを漁ってでも生きられる。それでも悔いがないよね?」と、自分に問いただしながら、生きてきたんです。

大切なのは失敗をも覚悟する決意だ、と。

活躍している映画俳優のみなさんも、全員そうですよ。映画が大好きで、その世界で挑戦すると決めて、何百人、何千人のライバルとの競争に勝ち抜かないといけない。オーディションで何度も落とされながら、それでもしがみついてる人たちは覚悟が違います。

人格や性格はそれぞれですが、全員プロフェッショナルな考え方を持っている方々でした。ちょっと上手くいかなかったからって、他の仕事を探そうなんて人はいません。もちろん、チャンスを得られずに落ちこぼれていく人も山ほどいます。でも、それすら覚悟して生きていく。「自分で、自分の人生を握っている感覚」を持っているんです。

俳優が特別なわけではありません。人の言葉や風潮に惑わされず、なんでも自分で決める生き方は、誰もができるはずです。好きなことをきっちり見つけて、自分で決めた選択を突き詰めていく。それが充実感を感じながら長く働くコツだと思います。

「働くとは『Create』だと思うの」

失敗するかもしれないけど、それでも選んだ道を進み続ける。働くことの意味を、今一度考えさせられます。

私は、働くとは「Create」だと思うの

つまり、ただ「作る」のではなく、それまで世にないものを「創る」こと。お金稼ぎは「働く」の一面でしかなく、働くことは本来、もっと喜びに溢れたものだと思います。

「Create」といっても、特別なことを言っているわけではありません。たとえば、絵が好きな人なら、自分にしか描けない絵を描くこと。料理が好きな人なら、オリジナルなメニューをつくってみること。

どんな仕事においても、自分にしかできない価値の生み出し方があるはず。それが、何にも代え難い喜びになるんです。

働くことへのそうした考え方は、昔からお持ちだったんですか?

言葉にしたのは初めてですが、映画字幕翻訳者になろうと決めた時から、ずっと感じてはいました。人にはできないことをできている喜びに後押しされて、一生懸命仕事に取り組んでいると、楽しいと思える機会も引き寄せられてくる。そういう循環の中で、生きてきました。

生まれた時代の中で、好きなように生きる

もし、戸田さんが現代の30〜40代だとしたら、また映画字幕翻訳者をされますか?

いいえ。今なら映画字幕翻訳者にはならないでしょうね。

私は、20世紀のエモーションに訴えかける内容のある映画が好きだったの。最近の映画は、少し趣が変わっているから、仕事にするほど好きにはならないと思います。

そう考えると、やっぱり「人間は時代の子」なんでしょうね。時代の移り変わりはコントロールできません。

だからこそ、自分が生まれた時代の中で、好きなように生きるしかない

今は、変化が激しくて先が不透明な時代です。新型コロナウイルスやウクライナの件によって、さらに大きく世界も変わっていくでしょうから、将来が不安になるのもよく分かります。

でもね、よく考えてみると、どの時代も同じだったとも思うんです。石器時代の人たちだって、中世の人たちだって、その時代なりに先が見えない生活を送っていたに違いない。

繰り返しになりますけど、大切なことは、時代の変化に目を配りつつ、自分で進む道を選ぶことです。一度、振り回されてしまったら、抜け出せなくなるから。

地に足をつけ、自分がやりたいことを実直にやっていく。そんな心持ちを持っていれば、この時代を切り抜けていけるはずです。

「人生100年時代」って言うけれど、案外あっという間よ。みなさんが、せっかくもらった命や時間を無駄にせず、充実感に溢れた人生を歩めることを願っています。

映画字幕翻訳者 戸田奈津子
東京都出身。津田塾大学英文科卒。好きな映画と英語を生かせる職業、字幕づくりを志すが門は狭く、短期間のOL生活やフリーの翻訳をしながらチャンスを待つ。1970年に『野生の少年』『小さな約束』などの字幕を担当。さらに10年近い下積みを経て、1980年の話題作『地獄の黙示録』で、本格的なプロとなる。その後は年間40本前後のフル回転が続いている。来日する映画人の通訳も依頼され、長年の友人も多い

[取材・文] 佐藤史紹 [編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭
2022/06/15

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