中間管理職は妄想せよ!SF作品からヒントを得るイノベーションの作り方

2021/10/26
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「新規事業のインスピレーションが湧かない」「会社にイノベーションが起こらない」と、悩んでいるビジネスパーソンは、多いのではないでしょうか?

ロボティクス企業、株式会社ATOUNの藤本弘道社長によれば、それは「今」をベースに未来を語るから。突き抜けたイノベーションを起こすには、遠くの未来を見通す「妄想力」が必要なのです。

小さいころからSFファンという藤本社長が提唱するのは「Sci-Fiプロトタイピング」。どのような手法で、どのように事業に活用すればいいのでしょうか?

SFファンが生み出した「着るロボット」

―ATOUNを起業されたきっかけは?

 大学卒業後は、松下電器産業(現在のパナソニック)で、材料のエンジニアをやっていました。ちょうどそのころ、社内ベンチャー制度というのが立ち上がりまして、もともと起業したいという意思があったので、それに応募したのがスタートです。

 小さいころからSF小説が好きで、ずっと未来の構想を実現するような会社を作れないかと考えていました。その中で、高齢化社会に対して提案したのが、現在の「着るロボット」の事業です。

―「着るロボット」はどんなプロダクトですか?

 装着型のロボットです。腕、足、腰を動かそうとしたときに、体の状態をセンシングして、それに合わせてモーターとギアが動いて、アシストしてくれる装置です。

 重労働に対して体の負担を軽減させるタイプのものと、健康増進に向けて歩行を助けるものと、この2つの分野で事業展開していて、今は製造や物流、介護の現場などで導入が進んでいます。 

 作業をラクにする点では自動のロボットを入れることで省人化が進んでいますが、自動化はシステム上非常にお金もかかるし、ロボットができない作業もたくさんあるんですね。そうした作業がどんどん残っている中で、我々の「着るロボット」が最新の道具として役立つわけです。

―「着るロボット」で、どの程度の負担が軽減されるんでしょうか?

 まず、腰の負担を軽減する「モデルY」は、だいたい20~30キロぐらいの荷物を運ぶ作業で、腰の負担が3~4割ぐらい軽減されるものです。

 もう1つが「Y + kote」といって、腰と腕をラクにする装置。これは腰をサポートすると同時に、左右で約12キロ分のアシストが腕に追加されるので、20キロぐらいのものを半分くらいの重量感で持ち上げることができます。

―「着るロボット」の未来のイメージは?

 2020年代の半ばまでに普及が始まり、2030年ぐらいまでには小型軽量化が進んで、ヘルメットやフルハーネスみたいに、アウターになにかついているような感覚レベルになるかな、と。

 2030年ごろになると、単なるパワーアシストだけではなく、スキルを助けてくれるところまで到達しているんじゃないかなと考えています。もともと体の動きをセンシングし、それに合わせてアシストできるようにしているので、例えば、ある運動がとても得意な方のデータがクラウド上にあれば、その体の動きをダウンロードして使うことができるようになると思います。

 2040年ごろになると、建設機械に取って代わるような、大型のパワードスーツができるかもしれません。たぶんマニアの方にはたまらないフォルムになってくるでしょうね(笑)。

―その未来に向けて、現在はどんなことに取り組んでいますか?

 できるだけ多くの人にラクに作業をしてもらうと同時に、そこで集めたデータを元に作業のスキルアップや疲れのマネジメントなど、ソフトウェアの面でサービスを提供する形を考えています。人間の動作をデジタル化させるという、1つのDXツールですね。

 そのためには、まずは制御技術がポイントなのですが、これが歩行などに展開されていくと、コンシューマ向けに「美しく歩くためのツール」などになる可能性も広がります。

すべてはウソから始まる

―「着るロボット」はどこから着想を得たんですか?

 まず、「これから子どもが減って高齢者が増えていく」というのは必然ですよね。その未来の世界では、例えば、作業現場の人は身体を使って仕事がしたいのに、体力が落ちてきたときにデスクワークを余儀なくされて、好きな仕事ができなくなるんですよ。「老々介護」というディストピアも現れる。

 そこで我々は、「パワードスーツで、ディストピアがユートピアに変わります」という物語を作りました。「パワードスーツ」のイメージは、映画『エイリアン2』に出てくる「パワーローダー」というスーツから発想を得ました。

 こうやって遠い未来のイメージから物語を作って、イノベーションにつなげるのが「Sci-Fiプロトタイピング」という手法なんです。

―遠くの未来をイメージするのは難しいような気がしますが……。

 近くって見えないんですけど、遠くって見えるんですよ。例えば、遠くの星の動きは見えるけれど、近くの空気中を動くものは速くて見えない。「VUCAの時代」も変化が速すぎて予測がつかなくなっていると言われますが、遠いところを見ると予測がつくんです。

 私がみなさんに勧めているのは、「あんなこといいな、できたらいいな」という、まさに『ドラえもん』の歌を起点にすることです。未来のイメージが自分で思いつかないなら、映画とか小説とか、SF作家が考えたものを取ってきてもいい。

 SF作家は作品中で1個ウソをつくんです。例えば『ジュラシックパーク』は、「未来の世界では琥珀の中の遺伝子から恐竜のクローンをどんどん作ることができる」という1つのウソだけで物語が展開する。

 そうやって未来の世界を突き抜けて描くことができればイノベーションになりますし、突き抜けなければ今と同じ世界にいるだけ、という。

―突き抜けるか、突き抜けないかの違いはどこにありますか?

 ウソによって、物語が面白くなるかどうかです。多分ウソのない未来ってめちゃくちゃ面白くないんですね。今のテクノロジーや社会システムをベースにして未来を話すと、「今の話」になりますから。テレビが大きくなっている、安くなっている……なんて、こんな悲しい未来ないんですよね。

 一方で、「2040年のテレビは、空間に浮かぶ大画面を見るようになっている」と言った瞬間、面白くなる。「どうやってやるの?」となったとき、私なら「網膜に映像を映しているんです」とウソをつき始めますけど(笑)。

 そういった空想や妄想に飛び込めて、そしてそのプロダクトとプロダクトを使った社会が面白いと思えれば、イノベーションだと思いますね。

―「Sci-Fiプロトタイピング」の実践は、まず未来のイメージを設定するんですね。

 その前に、まずは自分自身のタガを外すことからスタートして、人に発表する。人は恥をかきたくないので、ホラを吹ける人って少ないんですが、まずは自分自身のタガを外してホラ話をするのは大事だと思います。

 そして、未来の世界をイメージした後は、その世界の登場人物など、周辺の設定まで考えます。この設定をみんなで考えているときが、実はいちばん面白いです。

 僕のような関西人は小さいときから「めっちゃおもろいこと思いついた」って、みんなに披露したがりますけど、それは1割ぐらいが本当で9割ぐらい盛っているんですね(笑)。でも、未来なんてその1割の真実で十分なんですよ。

―未来の設定ができた後は?

 プロダクトだけではなく、そういった生活がどんなものか、というところまでイメージ作りを終えたら、今度はそこから逆算してくるんですね。仮に2040年の世界を想像したとして、現在が2020年代なので、その間だとどこまで実現していないといけないかという戻り方をすると、大体すぐ描き出せます。

 そこで今度は、それぞれのステージで市場規模とか競合などの洞察を加える。あとはひたすらその道筋を、微調整しながら突き進んでいくだけです。

みんなで妄想する環境を

―「妄想」で投資家や上司を説得するのは大変ではないですか?

 「やってみなはれ」と言ってもらう確率を上げるには、「物語で語る」ということが大事だと思います。その物語に共感さえしてもらえればいいんです。

 投資家にとっては「確からしさ」ではなく、「自分たちがその世界を信じられるか」が重要だと思うので 、少なくとも成功確率なんて話にならないと思いますね。

 私が投資家にプレゼンしたときは、「なぜお前にそれができるんだ?」と聞かれて、「ガンダム世代ですから」って即答したら通りました(笑)。物語に共感してもらうと、背景に対する余計な説明は要らなくなるんです。

―目標が遠い未来にしっかり定まっていて、まわりの人が共感しているというのが大事なポイントなんですね。

 そうですね。スタートアップやベンチャー企業は創業のときにこれをやっていると思いますが、多くの組織はそこまでやってない気がします。大体の人は社内で「なんか考えろ」って言われて、無理やり社内の事業を組み合わせたりする。それでもなんとなく事業はできるんですが、なにも楽しくないんです。

 これがもし逆だったらいいんですよ。「あんなこといいな、できたらいいな」と思って社内を見渡して、「あそことあそこを合わせたら、これができる」というプレゼンだと、もうそれで逆算になる。考えの起点をどこに置くかだけで、結構変わってくると思いますね。

 自分の仕事が好きで、幸せに仕事をしている人ってきっと、自分や事業について「あんなこといいな、できたらいいな」を持っているんじゃないでしょうか。

―社内で「Sci-Fiプロトタイピング」を行う場合は、どう組織を動かせばいいでしょうか?

 「チェンジリーダー」と言われる中間層の方々がまず、未来を見通す、妄想する権利を持たないといけない。それと同時に、未来を妄想する人が出てきたときに、応援する側に回らないといけない。できない理由を探すのは簡単なんです。だって妄想しているんですから。

 でも、妄想がないとイノベーションは起きない。妄想を捨てるのは、各企業のチョイスですが、基本そういった会社には未来はないと思います。ただ、妄想ばかりでも未来はない 。通常の企業はさまざまな事業の組み立てで成り立っていますから、バランスが大事かなと思います。

―どうバランスを取りましょう?

 せめて、妄想をみんなで建設的に議論できる環境を作りましょう、と。要は否定せずに面白がれる社風があれば、乗り切れると思います。

 未来の妄想を止めるのは、いわゆる中間管理職の人たちですから、トップまで「これ面白そうですよね」って上げてくれたらいいんですよ。トップはもしかしたら「面白い」って言うかもしれない。

 中間層の方々って止める権利だけを持っていて、なにかを行う権利というのは実は持ってないんですね。

 なぜかというと、現場がなにか新しいことをやろうとしたとき、たいてい止めるじゃないですか。それでも、自分たちはやるべきことをやっていると、みなさんポジティブに自負している。未来を潰しているなんて思ってないですよね。

 だから、止める権利が自分にあるという、その重大さに気づけば、きっとその権利を行使する人は減ってくるんじゃないかな、と思います。

―中間管理職は部下の妄想を止めないで、と。

 「一緒に妄想しましょう」と。一緒に妄想した結果、潰してくれたらいいと思うんですよ。それはすばらしい潰し方なので。

株式会社ATOUN 代表取締役社長 藤本弘道
1997年、大阪大学大学院工学研究科修士課程修了、同年松下電器産業入社後モーター技術研究所に配属される。2003年、社内ベンチャー制度を利用して株式会社アクティブリンク設立、2017年に社名をATOUNに変更。国立大学法人奈良女子大学 客員教授/大阪工業大学 客員教授/けいはんなR&Dコンソーシアム 技術・運営委員

[取材] 岡徳之 [構成] 山本直子 [撮影] 八月朔日仁美
2021/10/26

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