オフィスは自社の価値観を表現する場。戸建て「MOLTS HOUSE」に見る、企業の新しい”あり方”とは

2021/09/21
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新型コロナウイルスのワクチン接種の緩やかな広がりとともに、今後の働く場所に関して一部で議論が見られます。

コロナ禍でリモートワークという選択肢もある中、出社を求める会社に対してはメンバーから疑問の声も。いま、会社組織の経営者、マネジャーには「リモートワーク時代でも出社する意味」を創りだす必要があるのかもしれません。

そうした中、デジタルマーケティングカンパニーのMOLTSは、働く場としての賃貸オフィスを解約し、集う場としての戸建て「MOLTS HOUSE」への移転を実施。そこにはどんなねらいがあったのでしょうか。

MOLTS代表取締役兼CSOの寺倉そめひこさんに、これからのオフィスに求められる意味を聞きました。

出社率ゼロを機に、オフィスの存在意義を問う

―賃貸オフィスではなく、あえて戸建ての「MOLTS HOUSE」を購入するに至った背景を教えてください。

MOLTS HOUSE
MOLTS HOUSE

MOLTS HOUSEを購入する前、僕らは都内に賃貸オフィスを持っていて、当たり前ですが、主に仕事をしに来たり、全社会などイベントのときに集まっていました。

ですが、MOLTSはデジタルマーケティング領域におけるエージェンシー事業を主にやっておりまして、究極的にはPCとスマホさえあれば仕事ができてしまう。そのため、もともと出社を義務づけていませんでした。

自律的に働けるメンバーばかりなので、働く場所は自由に決めてもらい、オフィスは使いたい人だけ使ってね、と。

そして、2020年4月の緊急事態宣言後、リモートワークで仕事が完結するようになると、在宅ワークが当たり前になり、出社率がゼロに。だれも仕事しに来ないのであれば、オフィスをどう活用していこうか、とあらためて考えるようになりました。

そんなこんなで初めのうちは「今後、どのようにオフィスを利用するか」を考えていましたが、なかなか答えが出ない。なぜなら「オフィスを借りる」前提のうえで、その利用の仕方、つまり「手段」を考えていたからです。

ただ、いろいろと思考をめぐらせた結果、やはり僕らに「仕事をするためのオフィス」はいらなくって。あらためて、「手段」ではなく、MOLTSがオフィスを持つ「意味」を考える中で、MOLTS HOUSEのアイデアが生まれました。

―オフィスを持つ「意味」とはなんだったんですか?

そもそもMOLTSは、売り上げ目標や事業戦略を考えて作った会社ではありません。自律的に働けるメンバーが、あえてチームとして集まることで、1人ではできない大きなことを成し遂げていく。そんな「あり方」を実現するための会社です。

その「あり方」を、僕らは「美味い、酒を飲む。」という理念で表現しています。いい仕事をした後に、仲間と一緒にお酒を飲み交わす時間は、最高に幸せですよね。その状態を味わうための制度・カルチャー作りをしています。

ですから、今は「会社として、ここまで達成したらゴール」という目標を設定していません。超える山は高ければ高いほど、達成したときに飲む酒は美味くなるので、上限を設けることはしていないんです。

ただ、僕らは馴れ合いがしたいわけではありません。全力でクライアントの成果にコミットするため、ゴールを設ける代わりに「2030年で解散する」ことを決めました。そう聞いて、驚かれる方もいるかもしれません。しかし、期限を設けることの効果は、「甲子園」を見れば分かります。

高校生活には3年間という期限があるからこそ、球児たちは本気で野球に取り組めて、たくさんのドラマが生まれ、見ている人を感動させる。あの青春のような時間を、MOLTSで働く中で実現したいんです。

だから僕らはオフィスを、ただ「働く」ための場所にはしませんでした。2030年までの日々の思い出が色濃く残り、解散後もメンバーが「集う」場所にするため、賃貸ではなく戸建ての家を購入することにしたんです。

今は、もちろん仕事をしに来るメンバーもいますが、多くはクライアントやパートナーとの会食で使ったり、社内のイベントごとで使ったり、休日にプールを出して子どもを連れて遊んだり、レンタルサウナを借りて遊んだり、そういう「価値観を共有する集いごと」で使用しています。

自分らしい価値発揮がしやすいチームに

―「働く」から「集う」に変え、働き方はどう変化しましたか?

一つ大きな変化は、メンバーの人間性を知る機会が増えたことです。

まだ購入してから2カ月弱なのですが(取材は2021年8月2日に実施)、ビジネスでなく、プライベートで集うことが増えていて。

例えば、料理を作っているメンバーの手際をみて、普段の仕事の進め方にも通じるこだわりを知れたり、家族や子どもとの接し方から、大切にしている価値観をくみ取れたり。言語化しづらい部分を感覚的に共有できて、仕事の連携もより深みを持てるようになりました。

また、お互いの人間性を共有し合うことで、一般的な上司・部下の上下関係や、それにまつわる無意識のバイアス——「上司の意見には従わなければならない」などの認知——が解消され、以前よりも率直に意見をぶつけ合うシーンも増えています

人間性を共有し合ったり、本音のコミュニケーションを重ねたりすることで、会社自体への思い入れが強くなりました。もともと、全員が起業できるくらい、「個」として強くあることを重要視していましたが、今はそれに加えて、チームとして戦う意識もより強くなってきている感覚があります。

この変化は、テクノロジーの発展やSNSの台頭で訪れている「個の時代」において大きなプラスです。メンバー一人ひとりが、より主体的にその人らしい価値を発揮しつつ、お互いに感情を持ったメンバー同士がチームとして協働できれば、より大きな価値を生み出していけると考えています。

企業の価値観を表現するための「オフィス」

―オフィスを「家」に、働く場所を「集う」場所に変えたことで、チームとして成長できている感覚がある、と。これからの時代に企業がオフィスを持つ価値はいろいろありそうですね。

あくまで僕の見解ですが、今後、より小さな会社でもオフィスには企業の価値観が反映されていくと思います。

コロナによって、企業の価値観は細分化されました。緊急事態宣言下でも、物理的に同じ空間で働くことを重視して、通常通り出社していた企業もありますし、オフィスを完全に手放した企業も、完全にリモートワークへ移行した企業もあります。

どれが良い悪いではなく、「オフィスを借りる」が当たり前だったコロナ前とは異なり、企業や経営者の持っている価値観がより影響するようになったなと。オフィスは、その価値観を表現する手段の一つ

僕らのように「集う」意味を持った家を購入してもいいし、既存のオフィスを改築したり、オフィス自体を無くしてしまってもいい。

もっと自由に、前提やバイアスを捨てて「こんな働き方がしたい」「こんな組織を作りたい」という純粋な気持ちを大事にしていいと思います。僕らなんて、ゲストがお酒のボトルをキープできる棚を作って、自由に飲みに来られるようにしているくらいですから(笑)。

会社としての「あり方」を見直す

―お酒の棚、いいですね。ただ、大きなオフィスを所有している企業が、その使い方を抜本的に変えることは難しそうです。なにか、取り組めることはありますか?

一度、机と椅子を全部取っ払ってみるのはどうでしょう。というのは、もちろん冗談です(苦笑)。ただ、半分本気でもあります。

なぜなら、居酒屋とバーのカウンターでは話せる内容が違うように、座る場所や、同僚の顔の見え方が変わるだけでもコミュニケーションは変化するから。コミュニケーションの量を増やしたいなら円卓を設置したり、質を深めたいなら土足でリラックスできる場所を作ったりしてもよさそうですね。

もし設備を変えるのが難しければ、ソフトの部分を変えるのも一つの手段です。例えば、リモートワークで生産性高く働ける社員がいるならば、あえて業務時間はリモートワーク状態——ミーティング以外の雑談を禁止して、作業に集中させる——にして、その代わり、朝礼を長めにとって対話の時間を確保することもできます。

または、オフィスへの出勤時間にスマホで仕事を片づけてしまい、会社にいる間は、コミュニケーションを取る時間を意図的に増やすことも不可能ではない。もちろん企業の規模や業種・職種によって、制限は出てくると思いますが、小さなことからいろいろ試してみるといいと思います。

ただ、重要なのは「オフィスをどうするか」と考える前に、会社としてのあり方や価値観を見直してみること。そこから落とし込むことで、理想のオフィスの使い方や働き方が見えてくると思います。

―あり方や価値観から考えれば、表現する手段は工夫できそうですね。最後に、今後のMOLTS HOUSEの展望を教えてください。

MOLTS HOUSEは未完成な場所なんです。使い方が決まっていない空間があったり、看板がなかったりして、メンバーやゲストと一緒に作っていける余白をあえて残しています。

コロナが落ち着いてきたら、もっとイベントや飲み会を開催したり、平日でもメンバーの家族が遊びに来れる機会を設けたりしたいですね。2030年にMOLTS HOUSEが完成するよう、自分たちのあり方を表現する場所として、引き続き意味づけを深めていきたいと思います。

また、そのために事業面でも大きなことを成し遂げたいと思っています。なにかを達成したときに「この場所で過ごした日々のおかげだった」と振り返れることが、この場所に意味を与えるはず。いま仕掛けている事業も含めて、より多くの方に価値を届けられるチームになっていきたいと思います。

株式会社MOLTS 代表取締役兼CSO 寺倉そめひこ
1987年京都生まれ。藍染職人から2013年株式会社LIGに入社。同社でメディア事業部部長、人事部長を経て、2015年9月からは執行役員を務める。2016年3月にデジタルマーケティングカンパニー『MOLTS』を設立し、独立。オウンドメディア、コンテンツマーケティングのアドバイザリー、インハウス化支援、運用代行を軸にし、事業開発、営業組織教育、組織開発など幅広く支援の幅を広げ、累計50社以上の事業成長に貢献する。

[取材・文] 佐藤史紹 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭
2021/09/21

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