リモートワークで部下といい関係を築く「アサーティブ」なコミュニケーションとは?

2021/09/16
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「こちらは正しく伝えているつもりなのに伝わらない」――リモートワークが浸透する中、チーム内のコミュニケーションが難しくなったと感じているビジネスパーソンが後を絶ちません。

リアルな現場で苦労を共にしながら信頼関係を築いてきた時代とは異なり、短いオンラインミーティングやテキストだけで交流する時代、互いに言いたいことを率直に言い合える関係をつくるのは至難の技です。

そんな中、注目されているのが「アサーティブ」なコミュニケーション。アサーティブとは、価値観や立場の異なる相手を尊重しながら、自分の言いたいことを率直に、誠実に伝えて良好な人間関係を保つためのスキルです。

リモート時代だからこそ実践したいコミュニケーションの技術について、NPO法人アサーティブジャパン代表理事の森田汐生さんにお話を伺いました。

多様性の時代、ロジックだけでは伝わらない

―最近、30~40代のビジネスパーソンからはどのような悩みが寄せられていますか?

以前は「言いたいことが言えない」とか、「感情的に言ってしまって困っている」など、コミュニケーションのスキルが足りない方のご相談が多かったんですね。

ところが、今ご相談いただく方は8割以上が、コミュニケーション能力が基本的に高い。30~40代の方々のコミュニケーションはスマートだし、パワハラなんてしない、とても人当たりがいい方が多いのですが、「分かってもらえない」「伝わらない」という悩みを抱えています。

例えば、開発部門の方の多くは非常に頭が切れるし、ロジカルにしゃべるのは得意。だけど、営業の人とうまく交渉できない。なぜなら、営業の方たちは違うロジックで動いているから。

つまり、自分のロジックの中で正しい主張はできるけれど、違うロジックの人と対等に交渉することには慣れていないんですね。

「こんなに正確にロジカルに話しているのに、なんで分かってくれないんだ」というのが、職種問わず、多くの方々にとって大きな悩みです。50代以上の ”昭和上司” と話が通じないと感じてしまうのも、自分のロジックさえ伝えれば分かるはずだと思っているからです。

逆に、「部下や新人の本音が分からない」という話もよく聞きます。若手の本音を聞き出すのは簡単ではありません。いい意見をいっぱい持っているんだけれど、信頼してもらえないと本当のことはなかなか話してくれないから。

若手に接するとき、パワハラにならないように気を遣って非常に回りくどくなってしまう。はっきりと注意できない。注意して相手が嫌な思いをするくらいなら、自分でやってしまおうとする。それでは、社内のコミュニケーションが取れず成果も出ません。

「開発 vs 営業」にしても、「上司 vs 部下」にしても自分と異なる人たちの考えや価値観を尊重しながらも「私はこうしたい」とか、「それではうまくいかないから、変えたほうがいい」など、ちゃんと伝えて対等に交渉することが苦手なんだな、と思います。

―時代の変化で、これまでの経験値が活かせないという問題もありますね。

今はダイバーシティ(多様性)を推進しないと、企業が生き残れない時代になっています。デジタル化やリモート化による対人関係の希薄化、ハラスメントや離職の防止といった課題もあります。

以前は、社内イベントや飲み会を通してお互いを知る、というチャンスがいくらでもありました。ところが、今はリモートで相手を知る時間がないし、社内イベントは中止、飲み会もない。その結果「関係」がつくれない。

「関係」というのは、一言で言うと「踏み込めるか否か」。ある程度年月を共にして信頼関係ができれば踏み込めるのでしょうが、今の状況ではみんな怖くて踏み込めない。「それはいいね」は言えるけど、「それはダメだよ」が言えない。

批判されたら、自分が否定されたような気持ちになったり、相手を批判するのが怖くて反論ができなかったり……。今まで経験のない状況の中で、お互いの信頼関係と心理的安全性をつくっていかなければならなくなっています。「アサーティブ」はこの領域に入るんじゃないかと思います。

責めないで、客観的に、自分の気持ちを

―「アサーティブ」とはどんな概念ですか?

価値観や立場の異なる相手を尊重しつつ、自分の要望や提案を率直、誠実、対等に伝えて問題解決を図るコミュニケーションで、信頼関係を軸にしています。

例えば、「部下が書類の締め切りに間に合わないのに、それを上司に相談しなかった」というケースも、一見「遅れ」が問題のように思えますが、本当は「相談できる関係ができていないこと」が問題。「相談できる信頼関係」をつくることをゴールとして話し合いをしないとうまくいかないんですね。

アサーティブが活用できる場面

相手と対立したりぶつかったりしたときでも、アサーティブであれば、お互いを尊重しながら、下に書かれたようなことができます。

アサーティブであれば

「自分も相手も尊重したうえで、誠実に、率直に、対等に、自分の要望や意見を相手に伝える」とは、具体的にどのような行動や態度を意味するのでしょうか。

アサーティブであればなにができるのかを下に列挙しました。あなたは次のことがどれくらい実行できていますか? 1(できない)から4(できている)まで点をつけるとすると何点くらいでしょう。自分はなにが得意でなにが不得意か、自己評価してみましょう。

・自分の感情を適切に表現できる 1 2 3 4
・人の話に耳を傾けられる 1 2 3 4
・対等な立場で人と接することができる 1 2 3 4
・率直に要求を伝えられる 1 2 3 4
・「ノー」と言える 1 2 3 4
・問題点を指摘するだけでなく、代替案も出せる 1 2 3 4
・人をほめることができる 1 2 3 4
・人のほめ言葉を受け入れられる 1 2 3 4
・正当な批判を受け入れられる 1 2 3 4
・不当な批判に対しては、落ち着いてそれを否定できる 1 2 3 4
・怒りの感情を適切に伝えられる 1 2 3 4
・建設的な批判をすることができる 1 2 3 4
・自分の意見を押し通すのではなく、交渉し、歩み寄る準備がある 1 2 3 4
・新しいことに挑戦する勇気がある 1 2 3 4
・自分のほしいもの、やりたいことが分かっている 1 2 3 4
・短所も長所も含めて、自分のことが好きである 1 2 3 4
©︎2019特定非営利活動法人アサーティブジャパン

とはいえ、実践するのは簡単ではありません。なので、アサーティブのスキルを学ぶには、ロールプレイなどのトレーニングを行うようにしています。

―リモートワークだと関係構築が難しそうですが、「アサーティブ」をどう活かせますか?

距離が離れているからこそ、関係をつくるということを努力しないといけません。例えば、「メールで全部丁寧に伝えたから分かるはずだ」という前提が自分の中にあったとしたら、その前提を一旦外すことをお勧めします。

「言ったから分かるでしょ」というのは、こっちの理屈です。相手は分からないかもしれないということを想像していない。あるいは、こちらの理屈が通らないかもしれないという仮説を立てていない。

それでは、多様なメンバーがいるチームではうまくいきません。自分の言っている言葉が相手に伝わらないかもしれない、相手には相手の言い分があり正しさがある、という前提のもとで考えるのが多様性を活かす働き方です。

アサーティブな話し方とは、お互いの違いを前提として出発しますので、こちらが発する言葉は抽象的な表現をなるべく排して、具体的に分かりやすく、含みのない言葉にして表現します。

例えば「これって微妙だよね」「しっかりやってほしいんだけど」などのあいまいな表現は避けます。対面であれば、相手の表情を見ながら、中身の意味を確認できるので、誤解を避けることができますが、それを文字で見ると、読み手はどのように解釈してよいか迷いますよね。そうしたあいまいな言い回しは、アサーティブではNGとなるのです。

「僕の優先順位はX→Y→Zだけど、君の優先順位はX→Z→Yだよね。僕はこんな理由でYを先にしたいのだけど、あなたがZを先にする理由はなんなのか教えてもらえますか?」と、具体的に端的に書きます。

目の前に生きた人間がいると想像して、その人に届くように書く。あるいはこの文章を受け取った相手の顔を想像しながら、書くのです。

対面であれば、「聞く側」が伝え手の意図を汲むことが求められます。しかし文字になると、半分以上が「発信する側」の責任になるんじゃないかと思います。

―文字は半分以上「伝える側」に責任があるというのはハッとさせられますね。

文字情報には限界があるし、「書いたから分かるはず」ではなく、「相手が理解できるように書く」ことを意識しないといけません。特にビジネスチャットのように、リアルタイムで文字情報が飛び交うときは、特に「話すように書く」ことを意識する必要があります。

また、怒りをぶつけるような攻撃的な表現は極力しないようにします。私自身、利害関係のあるグループでSNSなどで議論をすることがありますが、そんなときには攻撃的な表現にならないよう、責める言い方にならないよう、細心の注意を払います。

「あなたはこう言いましたよね、それなのになぜ?」という言い方はせず、「私はこう受け止めました」「私自身はこんなふうにしたいです」と、「私」を中心に話します。そのうえで、「〇〇してほしかった」という過去の要求ではなく、「これから〇〇していきませんか」という未来への提案にすることも意識します。

文字情報は残るので、メールで相手を批判することは、本当に、本当に気をつけてほしい。ネガティブなメッセージを受け取った側は、何度も読み返しますので、最悪な気分になります。

伝わるように書く、責めないで書く、具体的に端的に書く、そして自分の気持ちも開示しながら「I(アイ)メッセージで(「私」を主語に)」伝えることが大切です。

もう一つは、相手が見えないからこそ、こちらが想像力を持って、仮説を立てて考えることです。「この人が締め切りに遅れたのは、なにか理由があるんだろうか?」「他の業務で忙しかったんだろうか?」「優先順位が低かったんだろうか?」と。

いくつかの選択肢を立てて相手に投げてみると、本人の気持ちに近いことが返ってくることが多いです。「なにか理由があるのか、教えてもらえますか。ほかの業務で忙しかったとか、聞いちゃ悪いと思っていたのかとか……?」と聞くと、相手はこちらの質問に答えやすくなります。

相手の本当の困りごとを見つけるために、仮説を立てて聞くのです。本当の理由が見つかれば、ソリューションが見えてくるから。それが、アサーティブに聞く目的です。

お願いや依頼をするときには、「これからは期限の3日前に15分程度時間を取るのはどうかな」など、具体的な提案を心がけます。私としてはこれを提案するが、あなたはどう思いますか、できそうだろうか、というキャッチボールを忘れないでください。

合意形成には、時間がかかります。こちらの言い分に、相手が「イエス」と言うことをゴールにすると、結局は説得となり、納得の行く話し合いにはなりませんよね。

相手を説得するのではなく、納得いくように話す。そのほうが、最終的に「今後も率直に話せる関係」につながっていくんじゃないでしょうか。

アサーティブな主張の流れとは

「話せる関係」で自由になる

―リモートワークは作業が効率的に進む分、「効率」とか「成果」とか、そういう分かりやすいものに目がいきがち。つい「関係づくり」はないがしろになってしまって……。

目の前の金の卵を取るか、金の卵を産む鶏を育てるか、という話ですね。特に中堅の方々は「成果を出すこと」に目が向きがちですが、長い目で見て「成果を出せる組織をつくるような関わり」を探っていかなければいけません。

それには時間もかかるし、実際には面倒くさいです(苦笑)。自分でやれば10秒で答えが出ることに、時間と手間をかけなければならないから。

でも、部下や後輩に本当に自立してもらいたいのであれば、時間がかかっても信頼関係をつくることを視野に入れたほうがいい。なぜなら、信頼関係が土台にあることで、本当の意味で人が育ち、自分が活かされる組織になるからです。

人が育つ、自分が育つ、人が価値を感じられる、この組織にいてよかったと思える、そんな組織を目指して周囲と関わる。一緒に仕事をしていて楽しい、と思えるチームをつくることも、やっぱりたぶん中堅の方々の仕事だと思います。

今までは同じ場所にいたから放っておいてもできたけれど、リモートになった今、短い時間でもいいから、そういう時間を設けることを意識する必要があるのかもしれません。

―人を育てるにも「関係をつくる」のが基本になるんですね。

若手をどうやって育てるかというときに、やっぱり「相談しやすい関係をつくる」というのを意識しないといけません。たとえ面倒くさくても。雑談とか声がけとか、毎日やる必要がある。

知識を教えたり、指導したりするときに、「心理的安全があるか」、「この人と一緒に仕事をして楽しいか」とか「自分の価値が理解できるか」というところを意識して関わったほうが、ずっと人は育ちます。

昔はオフィスに、嫌な人とでも一緒にいざるを得ない「島」というのがあったのが、会社の席がフリーアドレスになって、嫌いな人と一緒にやらなくなったでしょう。

アメリカなどでは、自由な会話ができる、自発的に会話が弾む、いろんな議論が生まれてくる、ということでフリーアドレスが広まったのでしょうが、日本の場合はフリーアドレスになって、むしろ会話がなくなったという組織もあります。

でもそれは、裏を返せば、苦手な上司と接点がなくなって、その人となりを知るチャンスがなくなることです。物理的な距離が近ければ、上司や先輩に相談できたかもしれない、あるいは上司からも「どうかした? なにかあった?」などと声をかけるチャンスがあったのでしょうが、それもなくなってしまう。

これはとても残念です。「自由にやっていいよ」となったときに、その「自由」は、自分の一時的な嫌な気持ちを取り除くという方向に流れていってしまった。どんな相手であっても対等に話し合い、相談できる関係があってこそ「本当の自由」だということに、私たちはもっと気づいていいんじゃないでしょうか。

それがリモートとなると、チャットのメッセージを適当に「既読」にしたり、ビデオ会議も参加しなかったり、さらに接点がなくなりそうですね。

そうですね。接点がなくなることで関係までも消えてしまうのは、あまりにももったいないと思います。こういうときだからこそ、あえて話してみるとか、あえて相談や議論をしてみるとか、意識して行動していかないといけないんじゃないでしょうか。

楽しいおしゃべりをするだけでなくて、もう少し突っ込んで「僕は違う意見があるんだよ」「あのときのAという案、後で考えてみたけど、僕はやっぱりBのほうがいいと思うようになってね、どうかな」などの話をする機会を作っていくことは、関係をつくるためにすごく大切なことだと思うんです。

アサーティブなコミュニケーションのスキルは、リモートワークの時代になって、ますます必要になってきたかな、と思いますね。

相手が自分と違うということに敬意を持って、本当にお互いを尊重し、正直に、率直に、同じ目線で話す。リモートであっても文字であっても、向こうには生身の人間がいることを忘れずに。

相手と信頼関係をつくっていくための勇気と関わり方のスキルを、アサーティブによって身につけられるといいなと思います。

NPO法人アサーティブジャパン代表理事 森田汐生
岡山県生まれ。一橋大学社会学部を卒業後、社会福祉士の資格を取得し、イギリスの精神医療団体にてソーシャルワーカーとして勤務。その間、イギリスにおけるアサーティブの第一人者アン・ディクソン氏のもとで研修を受け、トレーナーの資格を取得した。帰国後、アサーティブを普及するためNPO法人アサーティブジャパンを設立。多様な個人が互いに誠実で対等な人間関係を築くことを目的に、全国各地で多数の講演・研修を行っている。著書に『わたしのまま、素直に生きる』(主婦の友社)、『心が軽くなる!気持ちのいい伝え方』(主婦の友社)、『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか?心にたまったモヤモヤが晴れてくる!アサーティブの魔法』(青春出版社)など。

[取材・編集] 岡徳之 [構成] 山本直子 [撮影] 伊藤圭
2021/09/16

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