「裏表がある人」ほどメンタル不調に? マインドフルネス第一人者に聞くアフターコロナの働き方

2020/06/29
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新型コロナウイルスの影響を受け、緊急事態宣言が解除されてからも、いつもとは違う働き方を余儀なくされ、リモートワークなどでコミュニケーションがうまく取れず孤独を感じる人や、子育てと仕事の両立がうまくいかず、メンタルヘルスに不安を抱える人も増えてきているようです。

以前、当媒体で第一人者としてマインドフルネスについて解説してくださった荻野淳也さんは、今多くのビジネスパーソンが「今起こっていないこと」に不安を抱き、また同時に「意思決定疲れ」していると考え、平日早朝と午後に「オンライン瞑想」のセッションを無償で提供しています。

今回はそんな荻野さんに、今ビジネスパーソンたちの「心」に何が起きているのか。メンタルヘルスを良好に保ち、もし悪化した際にはどうすればいいのか。マインドフルネスの観点からその対処法やマインドセット、そしてアフターコロナに訪れる「未来の働き方」について伺いました(写真は2016年7月26日撮影)。

「Zoom瞑想」早朝開催でもビジネスパーソンに大人気

今回のコロナ禍で荻野さんご自身には何か変化はありましたか。

僕らは7、8年ほど前からリモートでの組織運営をしてきましたので、会社としては大きく変わりませんが、実は3月中旬に「wisdom2.0 Japan」というカンファレンスを虎ノ門ヒルズで開催予定だったんです。5年ほどかけて準備してきた企画を延期するという、経営者としては厳しい判断を余儀なくされました。

ただ、こういった状況だからこそ、これから起こりうる不安や恐怖に対処していこうと、3月9日から「朝のマインドフルネス」というFacebookグループを始めました。6時15分からZoomをつないで瞑想(メディテーション)を行うのですが、初日から25名くらいが来られて、いまでは150名前後の方が集まっています。

普段のセミナーでもなかなかここまでの人数は集まらないのですが、7、8割が常連の方で、やはり皆さん、それだけ切実に課題を感じていらっしゃるということなのでしょう。この場の持つ力には、僕自身も驚かされています。

また、急遽リモートワークを始めることになって、業務に集中できないとか、漠然とした不安があるといった声も周りからよく聞くようになりました。そこで4月6日からは「3時のマインドフルネス」をスタート。リモートワークの方はもちろんのこと、オフィスに出勤されている方が会議室から参加されることもありますね。

多くの人が「今起こっていないこと」に不安を抱いている

突然の環境変化で心身の不調を訴える方も多いのではないかと思いますが、荻野さんの周囲ではどういった声が聞かれますか。

人によって反応はさまざまですが、メンタルの不調が顕在化している方は多くいらっしゃいます。大企業の管理職の方は、なかなかアジャストできず、リモートワークについても消極的というか、「世の中の様子を見てから動く」感じの方も多いようです。

また、お子さんがいらっしゃる方は、一緒に生活しながら仕事をする環境にストレスを感じていたり、自宅で一人になれる場所がなかったりして、なかなか仕事のペースがつかめない。オンラインだけになって孤立感、孤独感を抱えている方もいます。

リモートワークになって「これまでよりも働きやすい」と感じている人もいれば、スタートアップの経営者などは、これを契機としていかにビジネスにつなげていこうかと意欲的に考えている人もいます。

その一方で、今回の行動自粛で大きな影響を受けた飲食店経営者の方や接客業の方は、資金繰りやスタッフの雇用をどう守ろうといった切実な不安や悩みを抱えていらっしゃる。本当に人によって感じ方はさまざまですね。

ただ、大きくは「3つの不安感」があるのではないかと思います。

一つは、自分や家族が感染症にかかるんじゃないか、という不安。「こういう行動様式を取っていれば絶対にかからない」とは言いきれませんし、どんなに気をつけていても不安感は拭えません。

2つ目は、リモートワークによる不安。一人暮らしの方は、オンラインだけでしかコミュニケーションを取れず、孤独感や孤立感を深めていく。ご家族がいる人は、お子さんの様子を見ながら仕事をしなければならない状況で、遊びたい盛りのお子さんがいるご家庭では本当に大変ですよね。DVの相談件数も3割ほど増えているようですし、それだけストレスが募っているということです。

3つ目は、将来的な不安。緊急事態宣言は解除されたものの、ウイルスがいつ収束するとも言い切れない状況で、長期的に収入面、経済面で大きな不安がある。「飲酒量が増えた」なんて声も聞かれます。

そういった不安を紐解くと、その多くは「今起こっていないことに対して心配している」ということです。

リモートワークで不安や孤独を感じる人もいればそうでない人もいる……ということは、無意識のうちに「不安」のほうを選択しているということ。そしてオンラインでつい怒りをぶつけたり、それを紛らわすためにお酒に走ったりしてしまっている。

だとすれば、逆に「平静」を選んで、その時間をいかに豊かに過ごすか、有意義なコミュニケーションを図るか、という選択肢も考えられるはずなのです。

激変する環境にアジャストするための「意思決定疲れ」も

今回多くの方が感じていることには、ある種の「意思決定疲れ」もあるのではないでしょうか。緊急事態宣言が解除になっても、自治体や団体などのガイドラインに則る形で一定の配慮や意識が求められ、常に何らかの意思決定をしつづけている、というような。

これも2つの意思決定疲れがあるように思います。

一つは、単純に意思決定の回数が増えたことによる疲労。周囲の目もある中で、外出していいのか、するとしたら何に気をつけるか。「自粛警察」なんて言葉も出てきましたが、「あの店に人が集まってる」「マスクをしていない人がいる」などと過度に考えすぎてしまって、疲れてしまうことも。

もう一つは、これからのアフターコロナにおいて変容を遂げるための疲労というか、自分たちも変わらなければならない、アンラーニングしなければならない中で、必然的に起こる疲労です。これはある意味、健全な疲労感と言えるかもしれません。

例えば、これまでハードワークしていた人は、このままでいいのか。こういった事態になっても無理に出勤せざるを得ないような会社で働き続けることが、果たして自分にとっていいのか、と。適切に情報収集して、これまでの自分の働き方、生き方を見直し、捉え直す、ということです。

コロナ禍になる以前から、個人と会社との関係性は少しずつ変わりつつありました。経団連が終身雇用を維持するのは限界だと表明し、個人の価値観は多様化して、会社の価値観と噛み合わなくなってきた。ただやみくもに一つの会社に所属しつづけるのではなく、自分はどうすべきなのか、どちらの方向へ向かいたいのか、改めて選択する契機になっているのだと思います。

しかし、そうした重要な意思決定を下すときも、不安を感じたままの状態では適切な判断ができず、疲れが増してしまうだけ。今の状況を俯瞰的に捉えて、情報を整理して、あるがままの現実を受け入れる。好奇心や注意力を保つためにも、「今、ここ」に集中し、自らの行動や感情の認識を高めるマインドフルネスが有効になってくるでしょう。

アフターコロナへの希望は「裏表のない」未来の働き方

しかし、そうした不安や疲労はある一方で、仕事においてビフォーコロナより事態がよくなっている側面もあるわけです。

ある研究グループのレポートによると、仕事中の緊張感やストレスについて、全体の約57%が「変わらない」、約34%が「(やや)⾼まった・増えた」と答えているものの、現在置かれた状況に対して「どちらかといえば幸福」と答えた人が約41%、「⾮常に幸福」と答えた人が約7%いるそうです。

今回、もちろん大変な状況下ではあるのですが、満員電車に乗らなくて済んだり、家族と一緒にいる時間や内省できる時間が増えたりして、一定数幸福を感じている人もいるようです。「十数年振りに家族みんなでご飯を食べた」とか、「料理をつくる時間が増えた」という声も聞かれます。

僕自身、満員電車がイヤで独立したようなもので、都心に住んで自転車で移動する生活を始めましたが、おそらく今回、出社しなくてもなんとかなると気づいた人は、これまでのように満員電車で通勤する生活には戻りたくないはず。

このように、これからはもっと、自分自身の価値観を会社や社会と統合させていく流れが進むのではないでしょうか。

価値観を統合させるとは、どういったことでしょうか。

ケン・ウィルバーの「4象限モデル」
ケン・ウィルバーの「4象限モデル」

『ティール組織』でも紹介されたケン・ウィルバーの「4象限モデル」の考え方ですが、自分の働き方を外面的、内面的、個別的、集合的な次元から捉えたとき、それらが矛盾なく統合されているのが、これからの未来の働き方と言えるでしょう。

例えば、リモートワークで「仕事モード」への切り替えが難しいと感じた方。同じ空間に家族がいる中で、どんな態度を取ればいいのか分からなくなった方や、「大企業の重役なのに、家では居場所がなくて、クローゼットの中で仕事をしている」という方もいたようですが、これまで「仕事は仕事、家庭は家庭」と切り分けて、仕事一辺倒の自分になっていた人ほど、メンタルを崩してしまっているのだと思います。

自分の表裏を切り替えて、仕事の顔、家庭の顔を使い分けるのが、マネジャーにとって常識だったかもしれませんが、これからはモードを切り替えることなく、自分の内面と外面を統合したワーク・ライフ・インテグレーションの働き方を目指すべきでしょう。

自分らしさを活かす「オーセンティック・リーダーシップ」も、その考え方の延長線上にあると思います。ビフォアーコロナでも、裏表のあるリーダーは信頼できなかったじゃないですか(苦笑)。そういった意識変容が多くの人にあり、働く人にとってもそれを求めるのが自然な流れになっているのだと思います。

働き方・暮らし方に迷ったら「身体が教えてくれる」ほうへ

よく「仕事と家庭と、どちらが大切なのか」みたいな問いがありますが、そういった考え方が古びていくのかもしれませんね。

もちろん、現実的にそれを選ばなければならない場面もあると思うんです。子どもの運動会の日に大切なクライアントとの会合の予定が入って、どちらかを選ぶような。

でもどちらかだけを選択するのではなく、最大限統合する方法を模索してもいいのではないでしょうか。午前中だけ運動会に行く、あるいはオンラインで会合をする、とか。「二兎を追う者は一兎をも得ず」なんて言葉もありますが、二兎を追ってもいいじゃないですか。自分がコントロールできないと思っていることにもその余地はあるかもしれない。

オンラインミーティングで子どもをあやしながら参加している人に対して、「そういうのはやめてください」と言うような人には、もう正直ついていけないかもしれない。僕としては、そういうことを受け入れられるコミュニティと経済圏を広げていきたいですし、その流れを加速させたいですね。

そうは言っても、理想と現実の狭間で、自分の価値観を会社や社会と統合するのが難しいと感じることも。そういうときは、何を拠り所にすればいいでしょうか。

そういうときは、「身体が教えてくれる」はずです。オープンでリラックスできて、他者とのつながりを得られるようなことか。あるいは過度な緊張感を強いられて、さほどワクワクしないことなのか。どちらかを選択することです。

おそらく若い世代ほど、前者を選ぶ人が多いでしょう。スティーブ・ジョブズもスタンフォード大学でのスピーチで「自らの内なる声と直感に従う勇気を持とう」と話したように、やはりそれが最もプライオリティの高いこと。

公私をいい意味で混同していく働き方が広がっていく中で、組織のマネジャーに求められるマインドセットはどういったものでしょうか。

組織を率いるマネジャーこそ、身体の声に耳をすませ、自らの内なる声と直感に従う勇気を持つべきです。そうでないと、メンバーには同じことを望むべくもない。

「自らの内なる声と直感に従う」時の心理状態はスノードームの視界がクリアに晴れた景色に近い
「自らの内なる声と直感に従う」時の心理状態はスノードームの視界がクリアに晴れた景色に近い

それを、「自分がいなきゃ」と無理に気を張って、過度なマネジメントを行ったり、自己犠牲というか、「自分はこれだけやってるんだから、お前もこれくらいやれ」という指示になったりすると、メンバーたちの意味のない残業にもつながってしまう。

ですから、まずは「完璧なリーダーはいない」と認めて、無理に抱えていたものを手放す。そうすれば、マネジャーとメンバーの間に心理的安全が生まれ、自走する組織につながるはず。そしてそれが、個人と会社との健全な関係性にもつながるのではないかと思います。

そのうえで、「あの人がこう言っているから」などと人の顔色を窺ったり、体裁やメンツを気にしたりするのではなく、自分自身の価値観や使命感にシンプルに従う。仕事も家庭も、内発的動機に従って意思決定するのです。

今回のコロナ禍はまさに、この10年くらいずっと言われてきた予測不能な「VUCAワールド」が現実となったもの。一瞬で社会が変わらざるを得なくなって、大きな混乱が世界中で起こった。おそらくこれからまた第2波、第3波がやってくるでしょうし、予測のつかないことが起こりつづけるでしょう。

「インパーマネンス」──仏教用語でも諸行無常と言いますが、「つねはない」のが真理であって、変化が起こりつづける中で、その波に飲み込まれるか乗りこなすか、そのどちらかしかありません。その中で「今、ここ」に集中し、物事をありのままに見て、身体の声に耳を傾けながら、最善の選択をしていく。自らポジティブに変化を起こしていくことが重要なのではないでしょうか。

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事/合同会社Wisdom2.0Japan代表社員 荻野淳也
リーダーシップ開発、組織開発の分野で上場企業などのリーダーシップトレーニング、コンサルティング、エグゼクティブコーチングに従事。慶應義塾大学卒、外資系コンサルティング会社を経て、マインドフルネスやホールシステムアプローチ、ストーリーテリングなどの手法を用い、組織リーダーの変容を支援し、会社や社会の変革を図っている。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教員。最新刊は『マインドフルネスが最高の人材とチームをつくる』(かんき出版)

[取材・文] 大矢幸世 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭
2020/06/29

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