たったの80時間で完成「行政発ITプロジェクトの奇跡」北海道コロナまとめサイトに学ぶ自律型組織のつくりかた

2020/06/26
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新型コロナウイルスが日本でいち早く広がった北海道では、感染拡大の状況を分かりやすくビジュアル化して伝える北海道 新型コロナウイルスまとめサイトが、IT技術者などの有志の手によって立ち上げられました。

デザイン、開発、デバッグなど、サイト開発には数カ月を要することが多い中、同サイトは呼びかけから「80時間」という非常に短い時間でローンチ。行政単独では出せないスピード感に、IT界隈では称賛する声が高まりました。

このプロジェクトチームの大きな特徴のひとつが、特定のリーダーを置かなかったこと。携わった一人ひとりが自律性高く動いたことが、ハイスピードの開発を実現する要因になったと言います。

一般の営利企業とは条件が諸々違うとはいえ、ビジネスパーソンがこのプロジェクトから学べることは多そうです。そこで発起人の一人である北海道庁職員の喜多耕一さんとCode for Sapporoの古川泰人さんに「自律型組織のつくりかた」という観点から、プロジェクトを振り返ってもらいました。

呼びかけに応えて北海道中から集う有志。完成まで80時間のスピード感

そもそもこのプロジェクトはどのようにして始まったのですか?

喜多さん(左)と古川さん(右)。取材はZoomにて
喜多さん(左)と古川さん(右)。取材はZoomにて

古川 このサイトは先んじて3月3日に公開された東京都版がベースになっているのですが、この東京都版がオープンソース(ソースコードを無償で公開し、誰でも自由に改良・再配布ができるようにしたソフトウエアのこと)だったことから「北海道版もやれないだろうか?」という話が持ち上がりました。

具体的には3月5日に北海道庁職員の喜多さんから、オープンソースの地図ソフトである「FOSS4G」コミュニティのSlackに投げかけがあり、また、ほかのオープンソースコミュニティの人たちも同時並行で「これ、作れるんじゃない?」という話をSNSに投稿していました。

ぼくも含めその両方につながりがある人たちが働きかけた結果、だったら全部つなぎますかということになり、5日の午後には6、7人が地域課題の解決を目指したプログラマーらのコミュニティ「Code for Sapporo」のSlackに集まり、その夜にGitHub(オンラインでプログラムを開発更新するプラットフォーム)上での作業が始まりました。 

喜多さんからSlackへの投げかけ
喜多さんからSlackへの投げかけ

喜多さんは最初に投げかけた時、どんな心境だったのでしょうか?

喜多 とにかく北海道が公開している情報が見づらかったため、東京都版がオープンソースで公開していると知って、「だったらこれを使って分かりやすい形で情報発信ができるのではないか」と思いました。反射的に、深くは考えずにSlackに投稿していました。

古川 その後、6、7日はずっと作業をして、8日の夜にはほぼ完成。その夜中に出そうという話もあったのですが、そこは一回待とうということになり。数字などの最終確認をして、9日の正午に公開したというのが、ざっくりとした流れです。

どんな人が、どれくらい関わっているのですか?

古川 トータル15〜20人くらいの人が関わってくれました。幅があるのは、いろいろな人が入れ替わり立ち替わりやってくれたからです。

プログラマーが中心ですが、喜多さんのような行政の人やデザイナーなど、幅広い属性の人が関わったのも特徴です。高専に通う若い人や、北海道にゆかりがあって、現在は海外に住んでいる人が翻訳部隊として関わってくれたりもしました。

ベースになったのはCode for Sapporoなどのコミュニティですが、「シビックテック(地域住民自身がテクノロジーにより、地域の課題を解決すること)」に関わったのは今回が初めてという人が半分以上を占めていました。

立ち上げから完成までわずか80時間。行政単独では出せないスピード感だったのでは?

喜多 「奇跡」と言っていいほど格段に速いと思います。行政が通常のやり方でこういうサイトやアプリを開発しようと思ったら、まず業者さんに見積もりを取って、複数の業者さんから入札を受けて……となるので、始まるまでに最低でも1カ月はかかってしまうのではないでしょうか。こういうコミュニティでボランティア的にやるとなったからこそ、これだけ早い動きができたのだと思います。

「すごい人」ばかり集まったのは、平常時のコミュニティ活動があったから

初めて参加する方も少なくない中、特定のリーダーを設けなかったと伺いました。

古川 サイトが公開されるまでの4日間、誰かが何かを指示するようなことはなかったです。逆に「何をしろという指示はないので、自分でできることをやりましょう」という"ルール"の説明だけをしていました。

それでいてスピーディに開発を進めることができたのはなぜでしょうか?

喜多 自律的に動ける人たちが集まったことに尽きると思います。最初に集まった時からすぐに問題意識を共有できて、ひとつのことに進んでいけましたから。

東京都版といういいお手本があったので、それを北海道版に変えていくのにどうしたらいいかを話し合うところから始まったのですが、北海道の関係各所のデータはオープンデータ(自由に使えて再利用もでき、かつ誰でも再配布できるようなデータのこと)になっておらず、足りないデータがありました。そのデータをどうやって取ってきて、どう更新するのかが決まらなければ、先には進めません。

結果として当初は手入力で更新することになるのですが、揉めることなく粛々と議論が進み、スムーズに合意していったのはとても印象的でした。

「使えるデータがない」という課題に対しても、GitHub上でよりよいやり方が模索された
「使えるデータがない」という課題に対しても、GitHub上でよりよいやり方が模索された

古川 1を聞いて10どころか20イメージできる人ばかりだったんです。「役所のデータの出し方がダメだなどと愚痴っていても何も始まらない。さっさと手を動かそうぜ」という人が揃っていました。

まるで戦隊モノの5人のように、得意なことの違う人が揃っていたのも良かったです。例えば喜多さんであれば、プログラムは書かないけれども行政の中のデータに詳しい。ぼくであれば、Code for Japan本体やほかの地域の人とのつながりがあったり、全体的なコーディネートができたりもします。あるいはPRや広報が得意な人、ロビーイングに長けている人、もちろん技術力の高いプログラマーもいました。それぞれ"必殺技"の違う人が集まったので、すんなり役割分担が決まったところがあります。

すごい人が集まったからできた。そう言われてしまうと身も蓋もない気がしますが……。

古川 ははは、そうですよね。でも、「すごい人」が集まったのは奇跡でも偶然でもないと思っています。3・11以降、日常がいかに大切かというのは繰り返し言われていることですが、喜多さんやほかの方々が普段からコミュニティの活動を行っていて、ベースができていたことが大きかったです。

これは仕事でも同じかもしれないですが、ぼくの考えでは、こうしたプロジェクトでは一緒にやっていて楽しいと感じられることも大事。その点、コミュニティのイベントなどで多少でも話したことがあったのは良かったですし、お互いの技術ブログを通じて「この人はこういうことに強いんだな」ということもある程度分かっていました。

「FOSS4G」コミュニティの祭典など平時からの交流が活きた
「FOSS4G」コミュニティの祭典など平時からの交流が活きた

初対面の人にいきなり無茶振りをしたら「何を言っているんだ」となるところでも、お互いに知っている仲であれば「ここはひとつ」「よくぞ頼んでくれました」となる。最初の5人くらいがそういう仲間だったから、早い段階で良いパーツがサササッとハマった感じがあります。ほかの地域だとこれが2、3人しかいなくて、プロジェクトが思うように進まずに苦労されたところもあるようです。うちはそこがありがたかったですね。

やっている中では判断に迷うところや、互いの意見がぶつかることも出てくるのではないかと思うのですが、どのように対応したのですか?

喜多 意見が食い違った時にはその都度フラットに議論しました。GitHub(ソフトウエア開発のプラットフォーム)のIssues(イシュー)に「こういうものを開発したい」と書く。すると、それに対してみんなが意見を言っていく。そこで「これはいるよね」「いらないよね」と逐一議論していました。

古川 オープンソースソフトウエア開発のコミュニティでは「文句を言うのであれば改善案を提案して、ともに考える」のが暗黙のルールです。今回のプロジェクトでは、こうした文化をグループとしてあらかじめ共有できていました。

GitHubには、インターネットにつながってさえいれば誰でも要望を上げられるので、「感染した人全員がどこにいるかを示せ」など、ちょっと刺激的なオーダーが外から投げ込まれることもありました。そんな時は「我々はこのサイトを通じて何を伝えたいのか」という原点の哲学、ビジョン・ミッションに立ち返って議論しました。

「原点の哲学」というと?

古川 我々が目指していたのは、いまあるオープンなデータを分かりやすく可視化することで、市民に正確に伝えること。いたずらに不安を煽ったり、誰かのプライバシーを侵してまでストレスを発散したりすることではありません。そう考えれば、自分たちがどう判断すべきかは自ずと決まってきます。

その意味で、サイトの立ち上げ時に「我々はなぜここにいるのか」という行動原則を作っておいたのは良かったと思います。今回扱ったデータの種類や事態のシリアスさから考えると、ちょっと間違えれば誰かを攻撃するサイトだっていくらでも作れてしまうわけですから。

社内外に小さく動ける仲間を作っておく

「行動原則に立ち返って判断する」など、企業にも通じるところがあるように思いますが、同じようなチーム運営の仕方は大企業でもできますか?

古川 シビックテック的な動きと違って、営利企業の報酬はどうしてもお金の部分に意識がいきがち。そのぶん、自律的な動きにはつながりにくい気がします。という意味では、喜多さんのいる公務員組織のほうが可能性があるように思うんですが、どうですか?

喜多 うちの場合もこうやってスピーディに動くのはなかなか難しいです。なにかするにはやはり上司の理解がいるので。特に今回のような事案だと、知事や副知事レベルの理解が必要になる。実際、今回も広報や対策チームに向けていくつか提案したこともあるのですが、ICT的な部分で理解してもらえず、なかなか話が進まなかったところがあります。理解するために時間を取るのももったいない、肉体的には時間がかかってつらくても、従来通りのやり方で進めたほうが精神的には楽だという場合もあります。こちらとしてもその気持ちは分かるので、なかなか変えづらいのです。

古川 確かに組織の規模やかたちにもよりますよね。おそらくは少人数のスタートアップだったり、サービスの初期段階・成長段階だったりにおいては非常に有用なやり方なのだと思います。

では、大きな組織に活かすのは無理ということ?

古川 まったくできないこともないのでしょうが、よほどビジョンが隅々にまで浸透していなければ難しい気がします。

それでも大きな組織でこうした仕事の進め方をしたいのであれば、その中に大きくならない、小さな単位で動ける部隊を作ることではないでしょうか。普段から会社のオーダーとかタスク以外のところで自主的に勉強会をやるなどして、さっと動ける仲間を自分たちなりに作っておく。組織・マネジャー側としては、それを認めてあげる。そうすれば、大きな組織であっても自律的で小回りのきくやり方をすることは可能だと思います。

一方で個人的に思うのは、もしもこうした活動でワクワクしたい気持ちを個人として持っているのであれば、必ずしも社内にこだわる必要はないということです。社外、いわゆるサードプレイス的な場所を活かす、それもキャリアのひとつの形と言えるのではないでしょうか。ちょっと前に流行った「二枚目の名刺」と同じ視点ですが、いまは副業もありますし、単に収入源としてではなく、自分の手持ちのカードを増やすという観点で、こうした動きをしてみるのもいいのではないかと思います。

その意味では、喜多さんがコミュニティ活動に関わることになった経緯はぜひ伺いたいです。

「FOSS4G Hokkaido」で登壇する喜多さん
「FOSS4G Hokkaido」で登壇する喜多さん

喜多 最初は趣味というか、好きでやっていたブログの発信が古川さんたちの目に留まったことがきっかけでした。

私はいまは情報政策課というところにいますが、以前は林業技師として森林の仕事をしていました。森の管理をするには地図を使うためのソフトウエアやデータが必要ですが、役所が導入していたGIS(地理情報システム)が非常に使いづらく、そこからオープンデータやそれを使うオープンソースのGISソフトウエア(QGIS)に興味関心が出て、個人的にいろいろ調べて使うようになりました。

QGISを仕事で使いながら、「自分がつまずいたのと同じところでつまずく人がほかにもいるだろう」と思ってブログでの発信も始めたのですが、そこから「変わったことをしている公務員がいるぞ」みたいな形でグループの人に拾ってもらい、コミュニティに関わるようになりました。ですから、古川さんの言うような「キャリアの可能性を広げる」みたいな意識はまったくなくて……。

古川 でも、自分の興味関心でやっていたことが結果として仕事にもつながるケースは増えてきていますよね。社会貢献というと大層なことのように聞こえるかもしれないですが、実際はそんなことはない。ぼくは町内会の活動もやっていたのですが、そうしたコミュニティに行くと自分の持っているITスキルがとても喜ばれます。エクセルができるだけで歓迎されるみたいなところがあるじゃないですか。

これはITに限った話ではなく、例えば営業スキルだって「テック」なわけで、日々の仕事で培ったスキルはお金を稼ぐこと以外にも役に立つ。社会貢献のワクワクした気分はそんな形でも味わえるし、そこで仲間が見つかり、できることが増え、仕事に還元されることだってあるのではないかと思います。

「Code for Sapporo」の集い
「Code for Sapporo」の集い

カギになったのは「Be Open」の哲学

ほかにも企業人がこのプロジェクトから学べることがあるでしょうか?

喜多 先ほどは難しいという話をしてしまいましたが、それでも「アジャイルにものを作って世に問う」ことはもっとあっていいのではないかと思っています。

今回、サイトを公開した後、道庁の広報から私に問い合わせがありました。東京都版が話題になっていたことで「こんなものを北海道版として作れないか?」と言ってきたんです。「それはもうありますよ」「有志の方が作ってくれましたよ」と答えると、「じゃあ私たちはどうすればいいの? 何かできることはないの?」と。

それに対して「ただデータをオープンにしてくれさえすればいいんですよ」と答えたところから、当初はすべて手入力していたデータがオープンデータに変わりました。どういうデータを出せば役に立つのか、オープンデータにはどんな意義があるのかといったことを、目に見える形でこのサイトがあったからこそ理解してもらえたわけです。

北海道庁から新たに提供されたオープンデータ
北海道庁から新たに提供されたオープンデータ

役所でソフトウエアやサイトを作ろうというと、完璧にできてから出すところがどうしてもあります。データに関してもそうで、なかなかオープンデータ化が進まない背景には、完璧なものでなければ出せないという考えが根強く残っています。

その点、今回のサイトは、最初にリリースした時はいまあるコンテンツの半分くらいの状態でしたが、その後もアップデートを繰り返しています。スピードという点でもそうですが、目に見えるものがあることで初めて物事が進んでいく部分があります。とりあえず出して、フィードバックを受けて後からブラッシュアップしていく、そうしたやり方をもう少し取り入れてもいいのではないかと思いました。

古川 いまの喜多さんの話は、もう少し広げて考えれば、外向けに発信することの大切さということでもあると思うんです。その意味で大きかったのは、早い段階でぼくらの活動を見つけたデザイナーの人が参加してくれたこと。「コミュニティを盛り上げるために」と描いてくれたイラストが、さらに人を呼び込む力になりました。

Illustration by LITTLEKIT under CC BY 4.0
Illustration by LITTLEKIT under CC BY 4.0

このイラスト自体がクレジット表示のみで自由に使える「CC BY 4.0ライセンス」なので、それを元にチラシを作ってくれる人も現れた。そこからメディアの取材も増え、さらには海外に住んでいる北海道にゆかりのある人たちがこのプロジェクトにどんどん参加してくれて、多言語対応が進んでいくきっかけにもなりました。これは、プログラマーだけのチームだったら到底実現できなかったことです。

サイトは6カ国語に対応
サイトは6カ国語に対応

外に開いている、まさにオープンな姿勢が生んだ結果とも言えますね。

古川 その通りです。ぼく自身、以前はIT系ではない会社にいたことがあるのですが、業界内のほかの会社は皆ライバルで、口もきかない、飲み会などもってのほかという文化もあると聞きました。今回のチームはそうではなく、オープンソースコミュニティがベースになっていたぶん、全員が「透明性」「参加」「連携」 といった「Be Open」の哲学を共有できていました。それが今回のキーだったのだと思います。

ソフトウエア的なプロジェクトの進め方が完璧だとは思いませんが、昭和のやり方と比べれば、やはり優れているところがいろいろとあると感じます。一般企業がそこから学べることは少なくないのではないでしょうか。

北海道庁職員/林業技師 喜多耕一
2018年から北海道庁総合政策部情報政策課に所属。個人としてオープンデータに興味を持ち、北海道での普及を行う。オープンソースGIS「QGIS」の業務での利用も推進している。著書に『業務で使うQGIS Ver3完全使いこなしガイド』など。

地図情報技術者/Code for Sapporo・Code for Japanメンバー 古川泰人
地図情報技術者、Code for Sapporo・Code for Japanのメンバーとして、「さっぽろ保育園マップ」や「ひぐまっぷ」などのプロジェクトに関わる。2016年MIERUNE社を創業し、総務省地域情報化アドバイザーとしてシビックテック、オープンデータ、オープンサイエンスなどに関する講演や執筆も行っている。

[取材・文] 鈴木陸夫 [企画・編集] 岡徳之
2020/06/26

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