全メンバー700名リモートワークのベンチャー経営者に聞く、離れていても部下の力を最高に引き出す秘訣

2020/06/15
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緊急事態宣言が出されたことで、リモートワークを始める企業が増えました。「離れて働く」ことを初体験し、移動の不要や一人で集中しやすい環境などそのメリットを感じながらも、しばらく経ち、離れて働く人たちをマネジメントすることの難しさに悩み始めた人もいるようです。

「リモートワーク」というこれまでのオフィス勤務とはまったく異なる状況で、上司・マネジャーはどうすれば部下・メンバーのやる気を引き出し、パフォーマンスを発揮させることができるでしょうか。また、自分のさらに上にいる上司と部下との間で板ばさみとならないためには……

そこで今回は、以前も一度ご登場いただいた700名超の全メンバーがリモートで働く、企業のリモートワーク導入を支援するベンチャー企業、株式会社キャスターの取締役COO・石倉秀明さんに、「リモートワーク時代の組織マネジメント」、その課題と解決策についてお話を伺いました。

今までは上司のやり方に部下が合わせてくれていた

キャスターは新型コロナウイルス発生以前から、メンバー全員がリモートワークをしていたそうですね。

キャスターは「リモートワークを当たり前にする」をミッションに、企業向けのオンラインアシスタントサービスなどを手がけています。自社としてもリモートワークを導入していますが、700名超の全メンバーが対象というのは日本最大規模、世界的にもなかなかないのかな、と。

社内オンラインイベントの様子
社内オンラインイベントの様子

ここ最近、新型コロナウイルスの感染拡大防止をきっかけに、リモートワークにシフトする会社が大企業でも増え始めています。しかし、ツイッターなどSNSを見ていると、リモートワークが「やりやすい派」と「やりにくい派」にちょうど半々くらいに分かれているように感じます。

では、その差はなんだろう……と考えたとき、「社員が会社や同僚にどんな関わり方を求めているか?」なのではないかと思いました。ここでいう「関わり方」とは、その人が心地よく感じる社員同士の距離感、その距離感で行われるコミュニケーションの取り方のことです。

同じ会社でも、社員同士がウェットに交わり、多くの時間を共に過ごしながら仕事を進めていくのを好む人もいれば、そういうのはいいから自分がやるべきことをやりたい、仕事以外のことにも時間を使いたいという人もいます。もちろん、その間のグラデーションという人も。

会社には本来、そのくらい多様な人が混在しているはずなんですが、これまではオフィスで顔を合わせて仕事をするのが当たり前だったから、どちらかというと、ウェットに交わりたい人たちのルールが主流でした。「ランチに行こう」「飲みに行こう」という誘いは断りづらい空気があって、「でも会社ってそういうものだから」と周囲に合わせるしかなかったんです。

そこに突然、リモートワークがやってきて、人と人との間に物理的な距離ができた。

そのことに心地よさを感じている人がいるというのは、これまでの組織マネジメントで「おざなりにされていたこと」が浮き彫りになったということ。つまり、これまでは上司がやりやすいと感じるやり方に部下が合わせていたということでしょう。

ちなみに、「リモートワークになって寂しい」という人もいますが、あれは別にリモートワークのせいではないですよ。リモートワークだって、人と関わりを持ちたい人は仕事終わりに飲みに行けばいいんですから。寂しさは、それができない外出制限をもたらしたコロナのせいでしょうね。

しかし、突然リモートワークになったことで、多くの企業で「コミュニケーションの課題」が発生していることはたしかです。

仕事の会話の質って、大きく3つに分かれるんです。「業務連絡」「軽いブレスト・壁打ち」「雑談・プライベートの話」。雑談から仕事の相談に発展したり、いいアイデアが生まれたりもするので、これらの要素が混ざり合って、オフィスの会話は成り立っているということですね。

3つのうち、リモートワークに移行すると、「業務連絡」はメールでできたとしても、「軽いブレスト」や「雑談」はメールだとどうしても堅苦しくなってしまいがち。これがチャットだと軽いブレストや雑談もしやすいんですが、メール文化に馴染んだ会社だと、チャットが使えなかったり、その使い方を分かっていない人がいたりする。

ひと昔前は、連絡事項を紙を持ってくるおじさんに対して「紙かよ、メールでいいのに」と思っていたのが、「メールかよ、チャットにしてよ」に置き換わったということでしょうね。

オンラインでも雑談はすごく重要です。ただし、「では会社全員に対してオンラインで雑談する場を設けましょう」と言いたいわけではありません。それにはまた別の問題があります。最近はそれこそ「Zoom飲み」も増えていますが、さっき言ったように会社には本来、多様な人がいるわけで。

ですから、「どちらかに合わせよう」ではなく、お互いにそれぞれの居心地のよさを尊重できるといい。ウェットにやりたい人はそういう会を開けばいい。だけど、「あなたがやりたいのを邪魔はしませんが、やりたくない人の権利まであなたが奪うことは許されない」と思いますね。

当たり前のことを当たり前にできる人の価値が高まる

リモートワークでコミュニケーションの仕方が変われば「活躍できる人」も変わってきますか?

「強者と弱者の関係」が根本的に変わる可能性はあります。

まず、以前は「都会で働く正社員の男性」が社会的に有利でしたが、それが崩れていくかもしれません。どこに住んでいるかは関係なくなりますし、チャットでお互いの動きが可視化される分、より本質的に大事な仕事の出来不出来が周囲に伝わるようになりますから。

つまり、チャットで可視化されることによって、役職や性別に関わらず、実は仕事ができない人、ちゃんと仕事をしていなかった人たちの存在がバレてしまう。会議では発言するけど、実際にはなにもしていない、出てきたものが話と全然違う……とか。

一方で、これまであまり注目されなかったけど、「当たり前のことを当たり前にできる人」の価値は高まると思います。

上司からすると、一か八かの人に仕事をまかせるのって嫌なんですよ。リモートで相手の姿が見えないからこそ、ちゃんとやってくれる、自分を疑心暗鬼にさせないタイプの人のほうが安心してまかせられる。

何を・いつまでに・どういうレベルで・どんな成果物として出すか――仕事の基本がきちんとできる人がいいですね。

メンバーからチャットで仕事完了の報告
計画どおりに仕事を完了させる。そんな「当たり前」ができる人の価値が高まる

こういう話をすると「リモートワークって成果主義ですよね」とよく言われますけど、半分正解で半分不正解です。まあそもそも、今まで成果を求められていなかった仕事ってなんなんだよ、とは思いますが……(苦笑)。

多くの人は、成果=「誰かの記憶に残るようなレベルの高いアウトプット」と考えているでしょうが、実際は「当たり前のことが当たり前に行われている」、これは事実ですし、立派な成果です。というか、世の中の「仕事」と呼ばれるものの9割は後者です。

もしこれが前者だったら、多くのビジネスパーソンは大変です。あなたがビル・ゲイツならそれでもいいのかもしれませんが、そういう人は全体の1%くらいでしょう。全員がそれを目指すのも違うと思います。

まずは当たり前にやるべきことをやること。そうした「役割を全うしているかどうかを判断する」という意味では、成果主義と言ってもいいかもしれませんが。

そのように仕事のルールが変わるため、「優秀な人」の定義も変わっていくんじゃないでしょうか。

これまでは、相手の気持ちを察したり、反射的に返すのが得意だったり……対面で接するのが上手い人が優秀とされてきたのが、リモートワークが浸透し、デジタルコミュニケーションが増えると、自分の考えを端的にテキストで伝えられる人が有利になるでしょうね。

その問題は「リモートのせい」でも「コロナのせい」でもない

リモートワークへの移行で、上司・マネジャーに求められる資質も変わりますか?

上司・マネジャーの役割は本来、部下・メンバーのモチベーションを上げることではなく、チームに与えられたミッションや目標を達成することです。

「行動のマネジメント」と「業績のマネジメント」に分けるなら、オフィスだと部下・メンバーの顔が見える分、仕事への姿勢やチームの活気など、前者がどうしても気になってしまうものですが、これからはより後者にフォーカスすればいい。

ですから、「リモートになって部下がサボっている、やる気がないように感じる」という上司の人がいるとすれば、それはおそらく、チームのミッションや目標がこれまできちんと定まっていなかったことが今回明らかになった、ということなんでしょう。

例えば、会社の経理担当に「この半期の目標はなんですか」と聞かれてもすぐには答えられない、みたいな。これって、「リモートワーク以前」の問題ですよね。

3カ月に1回でいいので、部下の仕事はなんなのか、まずは目標設定をすることが大切です。そのうえで、日々の進捗や自分たちが考えていること、感じていることを共有しあう。それは「体調はどう?」とかも含めて。

リモートでは察してもらえないし、察することもできません。だから、言葉にして伝え合うしかない。それがネガティブなことならなおさらです。

相手の温度感が分からないままその意図を勝手に想像しても仕方がない。ならば、リモートとはいえZoomでお互いの顔を見ながらクイックに話す。これまでは対面して相手の反応や顔色を伺えたけど、それができないならコミュニケーションの「回数」でカバーしましょう、と。

自分のさらに上にいる上司に対しても同じです。リモートワークに不慣れで、自分の働きぶりを小まめに確認したがる上司なら、「どうすればその人を安心させられるか」を考えたほうがいい。

「リモートワークで部下がちゃんと働いているか不安」という上司は、要は自分が安心したいだけなんですよ。ということは、安心させられればいいんだから、進捗情報を可視化すればいいんです。「チャットのここを見てもらえれば大丈夫」というチャンネルを設けるとか。

そこには「お互いの信頼関係がないこと」が根深い問題としてある。これってリモートワークのせいでもコロナのせいでもない。元々あった問題が顕在化しているだけなんです。

大前提として、上司は部下を無条件に信頼することです。だって「自分疑われているな」と気づいて、テンションが上がる部下なんていないじゃないですか。例えば、1日中外で仕事をしているとき、家にいる配偶者から「今なにしてた?」と30分ごとに聞かれたら窮屈でたまらないですよね。

それと同じです。それと同じことを、自分は部下にやっているのかもしれないと考えてください。自分が安心するためだけに、「今なにしてた?」と話しかけて部下の時間ややる気を搾取していいはずがありません。

信頼とは、部下の能力どうこうじゃなくて、上司である自分が「信頼する」と決めるか否か。相手がこの基準を満たせば信頼してあげる、というものではありません。信頼は技術です。「今この瞬間からこの人のことを信じる」と決める。それはもう、自分で変えられる話だと思います。

今はまさに変化のときで、急にリモートワークへと変わり、お互いに顔が見えないなかで相手を信頼をしてまかせるなんて「難しい」、そう感じている人は多いかもしれません。

ただ、コロナが収束した後もリモートワークの普及は進んでいくでしょうし、ゲームのルールが変わってしまったのなら、どうにか適合していくしかない。バレーボール選手が、いきなりラリーポイント制になったからって、「嫌だ」と言ってもどうにもならないのと一緒です。

僕には今、4歳の娘がいるんですが、約15年後、彼女が社会に出たとき、「昔の人は電車に乗って会社に行っていたらしいよ」と、今が懐かしい風景になっていたら、と思います。

上司・マネジャーの方々はこれを機に、しっかりと部下の「姿」ではなく「仕事」を見ることに集中する。そうすると、ほとんどの部下は何も心配いらないと気づくのではないでしょうか?

株式会社キャスター 取締役COO 株式会社bosyu代表取締役 石倉秀明
700名超のメンバーがフルリモートで働く株式会社キャスターの取締役COO。2005年株式会社リクルートHRマーケティングに入社。2009年株式会社リブセンスに転職し、求人サイト「ジョブセンス」の事業責任者に。株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)を経て、2016年より現職。2019年7月からはかんたん募集サービス「bosyu」を運営するbosyu社の代表取締役も兼任。

[取材・文] 水玉綾 [企画・編集] 岡徳之
2020/06/15

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