外出自粛期間を子供にとってポジティブな学びの時間にするために。いま求められる「ミクロレベルで妄想する力」

2020/05/20
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新型コロナウイルスの影響で「巣篭もり状態」が続いています。毎日学校に通うという当たり前の日常がなくなり、子供の教育について不安を覚えている親も多いのではないでしょうか。

どのように過ごせばこの期間を子供にとってポジティブな学びの時間にすることができるのか、二児の母であり、教育に関する海外の先端的な取り組みを情報発信する「Future Edu Tokyo」の主宰・竹村詠美さんに2年ぶりにご登場いただき、お話を伺いました(写真は2018年6月14日撮影)。

コロナ後に備える準備期間と捉えよう

新型コロナウイルスの問題が発生して以降、子供を持つ親からは、どんな不安・悩みが寄せられていますか?

最初は「きっとGW明けには学校も開くだろう」と楽観視していたから、「とりあえず与えられた時間を家族で楽しもう」とポジティブでいられた人も多かったと思うんです。

けれども、4月に緊急事態宣言が発令されたころから、思っていたよりも長期化しそうなことが見えてきて、「オンライン授業でちゃんと学べるのか」「学校に行かないまま進学・進級して新しい友達はできるのか」など、いろいろな不安が顕在化してきているように見えます。

学齢の小さい子供のいる家庭の場合、保育園は開いているのですが、無症状感染の可能性があるから怖くて預けられない。自宅に子供を置きながらリモートで仕事をする状態が2、3週間と続き、しんどくなってきているというのが正直なところではないでしょうか。

うちも子供が3歳ですが、保育園への登園は早々に自粛、会社員の妻もリモートワークになり、家族全員が自宅で過ごすことになりました。ただ、いまのところは親も子供も楽しく過ごせています。

親の状態が子供に与える影響は大きいです。親が心を落ち着けて、前向きにいられれば、子供も健やかに過ごせるのだと思うんです。

けれども、そういう家庭ばかりではありません。仕事のためのスペースが確保されていなかったり、デバイスが一人一台確保できなかったり、リモートワークの経験がなく、親自身が新しいやり方に慣れるのに精一杯だったりすると、イライラして、喧嘩が絶えなくなってしまうことも起こり得ます。このように経済的な格差とは違う、新しい格差が生まれているように思います。

こうした格差は通っている学校の行政区域によっても起こっています。例えば、渋谷区はもともと生徒一人につき一台のタブレットが配布されており、スタディサプリなどを使っていたので、スムーズに移行することができた。そうすると、いいか悪いかは別として、単元に沿ったものが確実にできることが可視化されているから、親としては安心感を覚える。

一方で、これまでなにもやってこなかったところだと、教育委員会の指導主事の先生がビデオで講義を録画し、それをケーブルテレビで流すというやり方をしているようです。慣れない中ですごく頑張っていらっしゃるとは思うのですが、残念ながら、そうしたものの評判はやはり芳しくありません。

家庭によって環境は違う中、どうすればこの期間を前向きに過ごせるでしょうか?

いまはいろいろな制限が小出しにされているじゃないですか。そこもご家庭にとっては精神的につらいのではないか、と。小出しにされると「ここさえ乗り切れば元に戻れる」という気持ちになり、腰を据えて前向きになにかに取り組みにくい。だから、まずは「もう元には戻らない」という認識に立つことではないかと思います。

その上で、今回の強制的に与えられた休息=巣篭もり期間を、コロナ後の世界でどうありたいのか、そのためにどう備えるのかを家族で話し合う準備期間と捉えてみることを提案したいです。仕事面、パーソナルな面、お子さんとの関わり方の面の三つの要素について、自分たちがどうありたいのかを話し合ってみる。どうありたいかのイメージが定まれば、どう準備するかも自然と見えてくるはずなので。

たしかに「戻らない」と思えば前を向くしかないですね。

「Withコロナ」「Afterコロナ」の世界がどうなるかはまだ誰にも分かりませんが、少なくともこれまで通りにはならないでしょう。産業構造も変わってくるし、教育の当たり前も変わってくる。これまでの価値観を多少は捨てなくてはいけない部分もあると思います。

教育に関して言えば、学校のカリキュラムをなぞるとか、東大に行くことが正解ではなくなる。実際シリコンバレーで成功した企業の創業者には、大学中退者も多いです。

今後を考えると、オンライン教育が一気に進み、また変化が早く、複雑化する社会に備えるのに必要な、実践的かつ深い知識を身につけるため、それぞれの分野でトップの教育機関から学ぶという流れも加速するでしょう。例えば起業家教育ならアメリカの大学の授業を受け、新興国のサステイナビリティについて学ぶならコスタリカの教育機関の授業を受ける、といった具合に。

日本のトップ大学に行くというのは選択肢の一つとしては残るでしょうが、必ず成功を約束するものではなくなりますよね。

それよりも、子供がいま、普段よりも余裕のある時間を使って、例えば映像制作を楽しんでいるのであれば、そういう方向もありなんじゃないか、とも考えられます。子供との距離がいつも以上に近いからこそ見えてくる「この子はこんなことが好きなんだ」「こういうことならすごく頑張れるのか」というところを観察しながら、こうしたことをゆっくりと考えてみてはどうかと思うんです。個性は状況によって発揮できる場合と出来ない場合があります。家庭という安心な環境で発揮できる「好き」から発展する可能性は大きいと思います。

これは子供の教育に限った話ではなくて、例えば、オンライン学習と遠隔医療が整えば、必ずしも都会に住む必要はなくなります。極端に言えば、「生活コストをぐっと抑えて、収入は2割減でも豊かな生活をローカルで送る」といった夢を描くこともできる。シナリオプランニングというか、いくつかそういうイメージを妄想することから始めてみると、そこから具体的なアクションにもつながっていくだろうし、少しは前向きに過ごせるのではないでしょうか。

家族で成長を共有するルーティンをつくってみよう

私は昨年、スタンフォード大学でデザイン思考をライフプランニングに応用する講師の養成研修を受けたのですが、そこで話されていたのも人生に常に三つのシナリオを持っていようということでした。

プランAは現在の延長線上の未来。プランBは一切の制約条件を取り払った上での夢など、すごく妄想した感じ。プランCは極端ではない、AとBのあいだ。そういったものを具体的に書き出したりイメージしたりしておくことで、現状をチェックしながら、常に広い視野で、どちらに向かおうかと考えることが可能になります。

いまみたいな無力感に苛まれやすい時期には、この妄想する力が一層大事になるはずです。アウシュビッツのサバイバーには、極限の中でも「自分にはチョイスがある」と思えた人が多いそうです。逆に「自分にはなんの選択肢も残されていない」と思った人ほど、先に活力を失ってしまったという話があります。

いまはそこまでひどい状況ではないけれども、無力感を感じやすい時ではありますよね。だから、ポジティブな選択肢について「あれはどう?」「これはどう?」と家族で話をすることが大事ではないかと思うんです。そこから「だったらこれをちょっと勉強してみようかな」という気持ちも生まれてくる。

「家族でありたい姿を妄想する」と言われても、どうしていいか分からない人も多そうです。

慶応大学SFCの井庭崇先生が紹介されている「幸せのたまご」という手法があります。1枚のA4の紙に卵の形を描き、真ん中の黄身の部分に今週自分が一番やりたいこと、白身の部分にはその次にやりたいことを書くというシンプルな手法ですが、こういうものを活用して、家族それぞれの毎週の目標をシェアし合うのはどうでしょうか。

なにか一つ新しいことに挑戦するとか、すごく好きだけれど普段は時間がなくてできなかったことをやってみるとか。週の頭に家族の間でシェアをして、週の終わりに振り返るというルーティンを作っておく。そうすると、家族の成長の喜びのようなものを共有できて、家にいてもすごく楽しくなってくると思うんです。

その際に、教育という観点で大事なのは、最終的になにをやるかは子供自身に決めさせることです。学校では先生があれやこれやと言って、子供が自分で考えて選択する暇がほとんどないという話もよく聞きます。そうではなく、子供が自分で選択してやってみて、それを振り返って、もっとやってみたいのかどうかも自分で考える。

これからの時代、子供たちにとって最も大切なのは「自分自身でなにかを変えられる」という気持ちをはぐくむことだと思っています。

産業構造が大きく変わる、地政学的なパワーバランスも大きく変わる、気候変動による変化も読めない、といった大きな変化に対して無力感を感じることは多いと思います。でも、実は社会というのは名もない一人の行動の連鎖で成り立っているんですよね。政治家も世論は無視できません。一人ひとりの行動により、少しずつ変えられることがあるという経験を積み重ねることで、より幸せな社会を子供たち世代がつくっていけるようになると思います。

日本の高校生の自己効力感が低いと言われるのも、日本社会がガチガチに硬直していて、「自分がちょっとなにかしたところで、なにも変わらない」と思えてしまうからではないか、と。

外との接続が遮断されているぶん、この期間はじっくりと自分自身がなにをやりたいのかと向き合うことができます。また、一旦やりたいことが決まれば、自分で学ぶための素晴らしいリソースが世界中で、無料でたくさん提供されているのは、コロナ後のいまの時期のいいところですよね。「自分が信じている方向に物事は変えていけるのだ」という経験を積むのに、大きなチャンスと言えるでしょう。

選ぶのは本人だとして、親が提案できる選択肢の幅が子供の可能性を決めてしまう。その意味では、やはり情報にどれだけアクセスできるかの格差が生じてしまうのでは?

それはコロナに関係なく、もともとそうでしたよね。ただ、そうだとしても、これまでと比べればさまざまな情報にアクセスしやすくなってもいるはずなので。YouTubeがわりと最強で、あれを見ているだけでもいろいろなものが発見できる。プログラミングもあれば工作も、料理も、運動だってあります。

一番怖いのは、「自分が知っている範囲よりもっといいものがあるのではないか」と欲張ってしまうことです。これは幸福の心理学でも証明されていることなのですが、「もっといいものがあるのではないか」と思い始めると、人は不幸になる。とりあえずは自分の知っているものの中から、わらしべ長者的に少しずつ広げていくのがいいと思います。

「こどもちゃれんじ」をやっているのであれば「こどもちゃれんじ」からでいい。科学が好きな子供なら「子供の科学」を購読してみるのでもいい。本当はそれだけですごく大きな学びがあるし、楽しめるはずなんです。いまはロボット玩具が流行っていると言われ、実際うちにもたくさんありますが、ああいう流行り物こそ危険です。いろいろと手をつけて、とっちらかってしまうと深みが出ない。散財だけしてしまうことにもなりかねません。

それだったら、まずは無料で「スクラッチ」をやってみて、すごく好きそうなら次のステップとして、3000円くらいで買える小さいロボットを買ってみる。それもすごく好きそうなら、もうちょっと大きなものを買うというような、段階的なアクションでいいと思うんですよね。

これをチャンスと思えない人には辛い時代が待っている

「自分なりにシナリオを考える必要性が増している」のは、大人に関しても言えそうですね。

自分なり、つまりミクロレベルで考えることの重要性は、実はコロナ以前から高まっていたこと。ですが、都市の生活、特にMBAを取得するようなビジネスパーソンの人たちは、これまで片時も立ち止まることを許されず、自身のキャリアにもお子さんの教育にも邁進する以外になかったのではないでしょうか。そう考えれば、強制的に立ち止まることを強いられた今回の巣篭もり期間は、自分たち自身がどうありたいかをじっくりと考えるチャンスと捉えられると思うのです。

シナリオを自分たちなりにつくったとして、社会の状況は絶えず変わっていくから、シミュレーションした通りにはならないとは思います。ですが、そういうトレーニングをし、習慣を身につけておくと、社会の側がまた変わった時の対応力が高くなる。家族としても、親としてもレジリエンスを高めることができます。そうした努力を少しずつでもしていかないと、言い方は悪いですが、急に梯子を外された時に対応ができなくなる。特に会社勤めの人はそのリスクが高いと思うので。

日本の多くのビジネスパーソンにとって、目標はこれまで上から与えられるものでした。例えば「売上いくらを達成する」といった目標を上から与えられ、そこにできるだけ最適化しようと頑張ってこられた方が多かったのではないでしょうか。だから自分で目標を立てられないし、自分の強みも分からない人が多い。

一方では、この危機に際して、いろいろな面白いプロジェクトを立ち上げている人もいます。医療デバイスに強い大学と3Dプリンタのデザイン会社などが横連携でつながってプロジェクトをやっていたり。そういう人たちは自分の強みも相手の強みも知っている。だからこそ業界の枠を超えてつながり、これまでであれば考えられなかったようなプロジェクトを形にできているのでしょう。

そうした例が実際に出てきているということは、コロナ後はそれがスタンダードになります。オープンイノベーションの流れが以前からあったように、コロナに関係なくそういう世界は来るはずだったのですが、コロナの影響により、鈍行列車だったはずがリニアモーターカーに変わって、予定よりちょっと早くに来てしまったということです。

リモートワークが標準になるなど、個人的には、もともと望んでいた変化も多いです。

そうですよね。だから、コロナ後の世界を怖がる必要はないと思っています。良くも悪くもテクノロジーはすごいスピードで進化しているので、人類としての課題解決能力は劇的に高まっているし、今後も高まっていくわけで。ですが、MBA的なコンテクストで言えば、ここを逆にチャンスと捉え、主体的に動かなければいけません。軸が大きくシフトするまでただただ立ち止まるだけの人にとってはしんどい時代が待っていると思います。

AIにだってできないのが意図や文脈をつくるところです。やはりわれわれ自身の、ミクロな単位で「どういう未来をつくっていきたいか」という意思がすごく大事になってくるのだと思います。

例えば、同じGDPでも国民の生活のあり方は大きく違います。監視型で自由が拘束された安全な社会を求めるのか、市民一人ひとりが高い思考力を持ち、対話する力を備えることで、多様性が尊重される、個人の尊厳を大切にする社会にしたいのか。

どのような決断にもトレードオフがあります。アルゴリズムによる大きなスケールでの監視や管理がしやすくなっている現在、どのような社会が幸せな社会なのかという問いを一人ひとりが考え、個人情報の取り扱いから信用スコア、公正な教育のあり方など、正解のない一方で社会に大きな影響を与える問いに対して、意思の表明や対話を重ねた上でより良い選択を行う必要があります。

どういう未来をつくっていきたいかと思考するトレーニングをいままでできていなかった人がいるのだとすれば、強制的な巣篭もり状態で内面と向き合えるこの期間は、むしろありがたいと思ったほうがいいのではないでしょうか。

FutureEdu Tokyo 主宰 竹村詠美
慶応義塾大学卒業後、経営コンサルティングを経てネット業界に転身。エキサイト・ジャパン取締役、アマゾン・ジャパンやウォルト・ディズニーのマーケティング責任者を務めた後、Peatix.comを共同創業。現在、FutureEdu Tokyo主宰、Learn by Creation 事務局長など複数のプロジェクトに参画する傍ら、国内外のスタートアップ支援も行っている。ウォートン・スクールMBAならびにペンシルバニア大学国際関係学修士号を取得。大阪出身の2児の母

[取材・文] 鈴木陸夫 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭
2020/05/20

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