世界一のレストラン「noma」を成功に導いた「最高のチームワーク」とは? CEOの右腕、日本人社員に聞く

2020/05/11
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デンマークの首都コペンハーゲンにある「noma」は、英レストラン誌が選ぶ「世界のベスト・レストラン50」で4度にわたり1位を獲得、北欧料理の歴史を変え、デンマークの観光客を約10%増加させたと言われる、まさに「一生に一度は訪れたいレストラン」です。

nomaがここまでの大成功をおさめられた理由は、その「最高のチームワーク」にあります。『チームワーク』と言うと、『性格や意見の一致する良好な人間関係』を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、私が考える『いいチームワーク』は、そうではありません

こう話すのは、同レストランのCEOピーター・クレイナー氏の下でマネジメントアシスタント/プロジェクトコーディネーターとして働く日本人女性、神尾理沙さん。異なる文化的背景を持つ多国籍のメンバー構成にも関わらず、「最高の瞬間をゲストに届ける」という目標に向かって、全員が一緒に進んでいる感覚があると言います。

「世界一のレストラン」で働く彼らにとって、「最高のチームワーク」とは一体、どのようなもので、どのようにして育んでいるのでしょうか? 神尾さんのお話を通じて、紐解いていきます。

前例のない体験を作り出す「noma」流のもてなし

nomaは、「世界一のレストラン」として高い知名度を誇ります。「期待を超える感動的なサービスだった」「一生に一度は訪れるべき」といったクチコミも聞かれますが、最大の魅力はどこにあると思いますか?

写真提供:noma
写真提供:noma

メンバーの「目的へ突き進む姿勢」「クラフトマンシップ」「チームワーク」、それらによって生み出される「アートな料理」と「最高の体験」ではないでしょうか。全員がそれらの同じマインドを持ち、「nomaらしいサービス」を提供していると自負しています。

「アートな料理」とは、「おいしい」の定義を広げる料理だと思います。例えば、お母さんが作っただし巻き卵が一番おいしいとしたら、それと同じおいしさのものを私たちが提供する必要はない。初めて出会うような驚きがなければダメです。しかし、斬新なだけでもダメ。刺激がありながらも、きちんと「おいしい」の範囲に収まっている。これがnomaが提供する料理です。

香ばしく煎ったひまわりの種と野草のサラダ、ローストしたキジのオイルとイーストを乳化させたソース(写真提供:noma)
香ばしく煎ったひまわりの種と野草のサラダ、ローストしたキジのオイルとイーストを乳化させたソース(写真提供:noma)

一方、「nomaらしいサービス」とは独特の「やわらかさ、しなやかさ」じゃないかと思います。フランクだけど、ゲストへの尊敬がきちんと感じられ、安っぽくない。サービススタッフは、常にゲストの動きを緻密に見ています。でも、監視しているわけじゃない。ゲストが取るであろう行動に基づいて計算し尽くされている空間にもnomaらしさが表れています。

それほど、ゲストに喜んでもらうために数えきれないほどの工夫が散りばめられているんです。ゲストに最高の瞬間を届けるために、いろんなことが目まぐるしく動いている。まるでレストラン全体が生き物かのように。

キッチンスタッフのみなさん(写真提供:noma)
キッチンスタッフのみなさん(写真提供:noma)

その複雑な「nomaらしさ」をスタッフ全員が理解しているわけですね。nomaで働くみなさんが、共通して大事にしているビジョンは?

前例のない体験を作り出すこと。食べたことのない、体験したことのないジャンルにチャレンジすることをとても大事にしています。

例えば、nomaではレストランにテーブルクロスがないことがありえなかった時代に、テーブルクロスを使わないスタイルを取り入れました。当初は「予約したけど帰ります」と抵抗感を露わにするゲストもいましたが、今ではそれがnomaのスタイルとして北欧に浸透しています。

当たり前の概念を覆してきたからこそ、nomaらしさが生まれ、「北欧クイジーン」という新たな料理のジャンルが誕生したんです。

加えて、人材育成に注力している点も評価されています。2011年には、世界中のシェフに向けてシンポジウムやワークショップを開催するなど、学びの場を提供する「MAD」というNPO団体を立ち上げました。レストランという枠を飛び越えて、さまざまなプロジェクトが同時並行で走っているんです。

MADのシンポジウム会場(写真提供:noma)
MADのシンポジウム会場(写真提供:noma)

「いいチームワーク」=「性格や意見の一致」ではない

そうしたnomaらしさを支えているのは「チームワーク」だと伺いました。現在の組織体制を伺えますか?

最も人数が多いのは、やはりレストランで働くシェフ、サービススタッフ、インターン生(シェフ見習い)です。一方、私を含むオフィスで働くメンバーは少人数で、オーナーシェフのレネ・レゼピとCEOのピーターのアシスタント、ファイナンス、ブッキング、PRなどがいます。

私はピーターのアシスタントとして、メールチェックや資料作成といったPA(パーソナル・アシスタント)的な業務を担いつつ、nomaが抱える大きなプロジェクトにも関わっています。例えば、nomaの移転や日本にあるnoma直系のレストラン「INUA(イヌア)」の出店プロジェクトにも携わりました。

日本企業と仕事をする場合は、ミーティングに参加しながら通訳もしますし、契約書の確認や直接のやり取りも行います。膨大な仕事量を抱えているピーターが全体をうまく見渡せるようにするための役割です。

まさにピーターさんとの二人三脚ですね。神尾さんは「いいチームワーク」とはどのようなものだと思いますか?

「チームワーク」と言うと、「性格や意見が一致する良好な人間関係」を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、私が考える「いいチームワーク」とは、そうではありません。

日本に住んでいたときは、いい人間関係を築き、保つうえでは、相手に反対意見を言うことを「タブー」のように感じていました。日本では反対意見を言うこと=相手の人格を否定することと受け取られやすい気がしていたからです。だから、本当は別の意見があっても、あえて黙っている場面も多かった。

それがデンマークに来て、そんなふうに受け取る人は誰もいなかった。「反対意見を言うことは相手の人格を否定しているわけじゃない。相手と良い関係を築くために、自分の気持ちを無視して同意する必要はないんだ」と、私自身学びました。各々にパーソナリティの違いがある、というそれだけのこと。反対意見を言ったとき、「そういう見方もあるんだね」と受け入れてもらえる間柄は、働きやすいと感じました。

いいチームワークは、そんなふうに率直に感じたことを言い合える、いい人間関係をさらに進化させる必要があると思うんです。お互いにフラットな立場で異なる意見をシェアしながらも、同じ目標を持ち、一緒に前に進んでいける関係。これが、まさにnomaのチームワークです。

共通の目標と異なるパーソナリティ、この縦と横の相互作用が、前例のない体験を生み出す推進力になった気がします。

写真提供:noma
写真提供:noma

反対意見の伝わり方・受け止め方について、なぜデンマークと日本で違いがあると思いますか?

教育の伝統の違いが大きいと思います。対話を重視するデンマークでは、幼いころから自分のパーソナルな意見を保つこと、それを相手に言葉で伝えること、自分と人との感覚の違いを理解しようとするスタンスが磨かれるんです。だから、そういう人格が若いうちから形成されやすいんでしょうね。

それは大人になってもそうで、「私はこう思う」と自分の意見をしっかり持っていて、それをお互いに言い合えるからこそ、どんな仕事であっても他人事じゃなくできるし、それぞれの感覚の違いを尊重しているからこそ、それらを掛け合わせて前例のないことに果敢にチャレンジできるんだと思います。

誰も正解が分からないことに取り組み、ゴールを達成するには、やはり率直にディスカッションし合えるチームワークが不可欠です。

「私を信頼してほしい」チームワークの第一歩

では、神尾さんと上司のピーターさんはどのようにして、「いいチームワーク」を築いていったのでしょう?

私は2016年からnomaの正社員として働いているのですが、それ以前にピーターと接する機会がありました。当時、フリーランスの通訳をしていて、ピーターが出席する会議を担当する中で、彼から「アシスタントをやらない?」と誘いを受けたんです。実は、noma以外にも2社からオファーをもらっていたのですが、nomaを選んだのはピーターの人柄に惹かれたから。

この信頼関係の助走は、未経験でパーソナル・アシスタント(PA)の仕事をするうえで、たしかにアドバンテージでした。といっても最初からすべてが順調だったわけではありません。そもそも彼はとにかく多忙で、だからこそアシスタントを雇ったわけですが、彼がPAを雇うのは初めてのこと。私を指導する余裕なんてなかった。

どれくらい余裕がなかったかというと、勤務初日、オフィスに行ったら、机の上にあったのは紙とペンだけ(苦笑)。それはもう戸惑いだらけで、さすがに日本人的思考で「なにか枠組みのようなものをください」と思いました。だけど、彼にはマニュアルを作れるほど十分な時間がない。だから、オフィスにいる人にnomaの情報を聞くところから始めました。

まさに未知の世界に飛び込んだと言っていい。とにかくピーターと話す時間を作って、彼がどんなビジョンを持っているのか、どんな性格なのかをつかまないことには仕事に向き合えないと思ったので、短時間でも彼とコミュニケーションを取ることを大事にしました。

そして、彼には最初にこう伝えました。「あなたが見せたいと思うところまで情報を開示してもらえばいい。私はその中で、できる限りのことをするしかないから。でも、一つだけ。私を信頼してもらわないことには、なにも始まらない。私はチームワークがほしい」。

「信頼してほしい」と言葉で伝える。ダイレクトですね。

おそらく日本では、こうしたアプローチは少ないですよね。でも、信頼関係は仕事の土台だし、それが私の本心だったから。

ただ、率直に会話することと、相手へのリスペクトを忘れてしまうことは違います。なにを言っても、どんな言い方をしてもいいわけではない。特にデンマーク語は敬語がなくて相手との距離が近い言語だから、場合によっては友達に話しかけているように聞こえてしまうこともあるんです。相手への本心がそのまま出やすいし、敬語じゃない方法で尊敬の気持ちを表す必要があって。

その方法の一つは、自分の気持ちを言葉で伝えることだと思います。「ありがとう」や「信頼している」など。それと、人として当たり前のことをちゃんとやる。朝早く会社に着いた日は他の人のデスクも拭く、目についた洗い物を片づけるとか。人としての振る舞いに気をつけています。

より本質的には、ピーターの求める仕事に対して、それをただこなすだけじゃなく、「自分らしさ」を掛け合わせて応え、「私だからできること」を増やしていくうちに、彼との信頼関係が深まっていったように思います。

相手が口にしない思いを察する日本人の感覚を生かして、ピーターがほしいと思ったときにほしいものが用意されている状況を作れるように心がけました。「返事が必要なメールにきちんと返事をしているか」「彼がボトルネックとなって滞っている仕事はないか」など、彼が関わるあらゆることに目を配りながら、私から彼にパスを出すようにしました。

これが例えば、スケジュール調整や資料を印刷するだけの機械的な仕事なら、私じゃなくて、他のPAでもいいわけで、「私だからできること」はなにか、日々の仕事に体当たりしながら一つひとつ見つけてきました。

繰り返しになりますが、いいチームワークには、一人ひとりのパーソナリティの違いが欠かせません。だとすれば、「自分らしさを掘り下げて、『私』としてチームに貢献しないといけない」と思っていて。会社のアイデンティティと自分のアイデンティティが重なるからこそ、いい仕事ができるんです。

相手を信じ、本音に耳を傾ける。建前だけの仕事に意味はない

会社と自分の「らしさ」の重なりを探る中で、上司やメンバーと意見が食い違い、苦労することはありませんでしたか?

ありました、もちろん。詳しくは開かせないのですが、過去のプロジェクトで実際にピーターと意見が真っ向からぶつかって、結局私が折れることになったんですが、そのとき私は彼にこう言いました。

「今のは仕事上の会話だったけど、仕事と切り離したあなたのパーソナルな意見を聞きたい。本音ではどう思っていますか?」。

そう質問したのは、彼の意見にきちんと納得したうえで一緒に仕事がしたかったから。すると彼は、会社とはニュアンスの異なるパーソナルな考えを明かしてくれた。それまで私が見えていなかったピーターの一面を知ることができて、より対話しやすくなりました。

そもそも、なにかを決めるときにすべての判断材料がそろっていることなんてめずらしいですよね。だからこそ、モノごとを多角的に見ること、そのためにチームワークは大事なんだなって。

もし、上司が自分の本音とは異なる意思決定をした場合、「なぜそのような判断をしたのか」「なぜやむを得ないのか」を真摯に説明してくれたら、部下としても理解できるのではないでしょうか。

一番良くないと思うのは、「会社の判断だから仕方ないよね」と半分言い訳みたいに言うこと。そんな姿勢では関わる人に不信感を与えるし、なによりそこに自分の意思がまるでないことが恥ずかしいと思いませんか?

会社、仕事である以上、お互いに「本音と建前」はある。だけど、「会社」と「自分」を完全に切り離すなんてできないし、切り離すくらいならそこで働く意味がない。デンマークで働くようになって、「自分と会社がマッチしない場合は転職するのが一般的である」という文化に触れ、そう思うようになりました。

これは対上司だけの問題でなく、他のメンバーに対してネガティブな感情を抱いたことも正直あります。でも、どの人もピーターが信頼している仲間だし、「nomaを良くしたい」という想いは全員が持っているはず。それなら、みんなをもっと信頼しないといけないって。

例えば「ちょっとキツい言い方をするな」と思っても、「そんな人ではないはずだ」と仮説を立てて、それをもって相手と接する。そのうちに相手のいろんな面が見えてきて、私に見せた嫌な面はその人の一部でしかないし、ゴールに対してはさほど大事なことではないと気づけました。

・・・・・・と話しているうちに気づきましたが、毎日目まぐるしくいろんなことが動いているnomaでは、忙しくて相手の嫌のところや人間関係を気にする暇がない、というのも本音かもしれません(苦笑)。

「noma」マネジメントアシスタント/プロジェクトコーディネーター 神尾理沙
1982年東京生まれ。2004年に渡丁。デンマークで大学に入り直し、栄養士・家庭科教師の資格を取得。料理講師、家庭科教師、通訳など幅広い経験を経て、2016年からnomaに所属。

[取材・文・撮影] 小林香織 [編集] 岡徳之
2020/05/11

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