結局、部下への「正しい仕事の任せ方」って? 働きがいアジアNo.1サイボウズに聞く

2020/04/03
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会社から与えられた目標や予算を達成するため、いかに部下のモチベーションを高め、成長を促すか。上司として職責を果たすうえで求められることは多岐にわたりますが、中でも悩みとしてよく聞かれるのは「部下にどのように仕事を任せるべきか」ということです。

思い切って仕事を任せたとしても「イマイチ主体性が感じられない」と、不安になることもしばしば。「仕事を丸投げされた」と思われて、明らかに不満げな顔をされることも……。思うような成果が出ず、部下の仕事を引き受け、オーバーワークに陥る上司もいるようです。

そもそも、いまの上司はいろんなことを求められすぎているんです。そして、任せるうえで大切なことは、部下と「お互いさま」の気持ちで向き合えるかどうかだと思います。

そう話すのは、サイボウズ株式会社取締役副社長で米国法人の社長も務め、著書に『最軽量のマネジメント』もある山田理さん。同社はアジア地域における「働きがいのある会社」ベストカンパニーにも選出されましたが、その人事制度策定に携わってきた人物です。

そんな山田さんに今回は「結局、部下への仕事の任せ方とはなにか」についてお話を伺いました。山田さんの言う、上司と部下と「お互いさま」の関係、それを支えるコミュニケーションや組織文化、マインドセットとはーー。

 

「仕事の任せ方」に唯一の正解はない

多くの上司からよく聞かれるのが、「部下にどのように仕事を任せればいいか分からない」という悩みです。

なぜそれが難しいのかというと、一言で言えば「部下は一人ひとり違う」ってことですよね。それなのにひとつの方法でなんとかしようとするから、うまくいかない。当たり前のことなんです。

その部下は新人なのか、ある程度責任を取れる人、あるいは取ろうと考えている人なのか。どんな人なのかによっても違いますし、会社の状況によっても違う。答えはひとつではありません。

僕は長く人事に携わってきたのですが、考え方のベースにあるのは、社員は「100人100通り」だということです。

例えば、仕事を任されてやる気が出る人もいれば、「正直、自信がないな」と感じる人もいる。「自分のやりたい仕事を自発的にやろう」と言われても、何がやりたいのか分からない人もいる。ですからまず重要なのは「部下の話を聞く」ということです。

僕はこれを「ザツダン」と呼んでいて、1on1よりももっと文字通り雑談に近い感じ。最近取り組んでいること、困っていること、悩んでいることなどを話してもらうのです。すると、ひとまず打ち明けるだけでラクになるのか、誰か他の人に相談したほうがいいのか、何か具体的なアドバイスができるのか、いろんなことが見えてくるはず。

1on1を始めたけど、「部下に何をどう聞けばいいか分からない」「上司にあまり本音を打ち明けることができない」というのは、それだけちゃんと上司が部下と向き合ってこなかったことの裏返しでもあるんでしょうね。

部下の「やりたいこと」より「できること」

部下によりよく仕事を任せるために、ザツダンでは具体的にどんな会話をしますか。

ザツダンの会話で、「仕事を任せる」ということにフォーカスしてみると、まずは部下がやりたいことというより、できることを聞いてみる、やらせてみるのが現実的だとは思います。

「その人自身が本当にやりたい仕事をやってもらうことで、パフォーマンスが上がる」という考え方もありますが、「やりたいこと」に振りすぎてしまうと、本人にできなさそうなことも出てくる。部下に「本人にとってやったことはないけど、やってみたい」仕事を任せるのは、それはそれでよさそうに見えるけど、実は失敗の確率も高いんです。

もちろん、本人の希望も大切にしたいし、企画の仕事とか楽しそうに見えるだろうけど、本当にそれは本人にとってやるべきことなのか。「その道のプロになりたい」と考えているようなことなら任せてもいいかもしれないけど、「いや、そこまでは……」ということなら、まずは企画が大方固まって、オペレーションの段階になってからやらせてみる。

本人にとっては不本意かもしれないけど、オペレーションにしてもきっちりやるにはスキルが必要だし、その過程では企画のなんたるかを知ることもできるだろうから、意味のあることなんだ、と納得してもらえばいいんです。

「部下に仕事を任せる」というけど、任せることそのものにあまり意味はありません。大切なのはあくまで、組織として成果を出すこと。そう考えると、まずはその人にできることからやってもらったほうがいい。

ただ、矛盾してるかもしれないけど、ザツダンで話す内容としては「何がいま、いちばん楽しいの?」とか「何か気になることはない?」といった質問になるんです。

これがプロジェクトマネジメントの考え方だと「どうして成果が出ないの?」という質問になるんだろうけど、ただKPIを追って、機械に油を差すように「あとどれだけで数値目標を達成できるの?」と質問するようでは、人間を見ている気がしない。自分が責任を取らされるのがイヤで、その負担を部下に転嫁しているようなものじゃないですか。

僕は「その人は何ができるのか」にフォーカスすることが大切だと思うからこそ、それを知るために、「何がいま、いちばん楽しいの?」「何か気になることはない?」って聞くんです。

そもそも「自分はこれを成し遂げたいんだ」と意志がある自律的な人だったら、会社員にならずに起業しているかもしれない。会社員として会社に入社している時点で、ある程度「会社に言われたことはしっかりやろう」という覚悟はあるはず。けれどもそれを「こうしろ、ああしろ」と逐一指示されて、コマのひとつみたいに扱われることには誰だってストレスを感じますよね。

ですから、一人ひとり「何か不便を感じていない?」「苦手だと思うのはどういう仕事?」と、働く人の気持ちにしっかり目を向けて、「この人ができることはなんだろう」と考えていく必要がある。すると、一人ひとりのパフォーマンスが上がって、その総和が大きくなり、結果的にプロジェクトの成功につながります。

「マズい情報」ほど部下に公開したほうがいい

上司が部下に仕事を任せるうえで、ザツダンのほかに重要なのはどんなことでしょうか。

重要なのは、あらゆるプロセスを透明化して、情報公開を行うことです。プロセスを公開することで事業や仕事の成功確率は上がります。

よくあるのが、経営陣が「これが今期の経営戦略だ」と決めたものが、現場に下りてくると「これってどうなの?」「うまくいきそうにないよね」と、影でささやかれたりする。当然、上司から頼まれる仕事にも「やらされ感」が出て、うまくいくものもうまくいきません。

けれどもその経営戦略が決まるプロセスを公開して、どんな背景やどんな判断で決定したのかが分かる状態にしていれば、社員たちの理解度も深められますし、それぞれの仕事に落とし込んだときの精度も高くなります。

僕らは本当に経営の根幹に関わるようなごく一部のことを除いて、ほとんどを公開します。よく話しているのは、「マズい情報ほど公開したほうがいい」ってことなんです。

例えば、「業績が予測を下回り、今期はボーナスを支給しない」とする。でも社員たちに伝わればモチベーションが下がるから、現段階では言わないでおこう、と。そういった情報は噂のような形で尾びれも背びれもつけて、光の速さで広がっていきます。すると「ウチの会社は経営危機に陥っているのでは」と、より悲観的な情報として伝わって、適切な行動が取れなくなってしまいます。

はじめから情報をオープンにしていれば、「ボーナスを支給しない」という判断に至ったプロセスを社員たちも認識することができます。「今期はこの実績だから仕方ない。いまの段階から来期に向けて施策を考えよう」と具体的に行動することができるのです。

それを社員全員が全部を把握している必要はありません。知りたいとき、気づいたときに調べればすぐに分かるような状況にしておくことが重要なんです。拾う人は拾うし、聞きたい人は聞く。スルーする人はスルーする。ただそれだけのことです。

よく「社員の主体性を引き出したい」みたいな声を聞きますが、主体性ってつまり、情報収集の主体性だと思うんです。情報を知っていたほうが仕事の効率も精度も上がるから、必要性を感じている人は自分から情報を取りに行こうとするはず。

サイボウズでは「本部長会」と言われる本部長らが出席して意思決定をする会議の議事録を即日公開しており、誰がどのような発言をしたかまで記載している。この画像はとあるサービスの終了を決断した際、一社員から送られたそれに対するコメント。

多くの企業はピラミッド型の組織になっていると思うのですが、これまで上司は下から情報を吸い上げ、上層部からの情報を受け取り、集約された情報をもとに意思決定する役割でした。ピラミッド型は、情報を集約するのに効率的な組織体系だったんですね。

けれどもいまや、どの職種も高度化して「現場の人のほうが分かっている」ことも多い。インターネットによって、情報を集めるコストも下がってきました。すると、上司が「上層部しか知らない情報で上が決めたんだから、つべこべ言わずにやれ」みたいなやり方が機能しなくなってきます。

上の人は上になるほど、権威を守るために自分の知っている情報を隠そうとするんです。下の人にとってはそれがストレスになります。自分の知らないところで勝手に物事が決まって、決まった後になんとかすることになる。それがどれだけ大変かを知っているんです。

上司には「説明責任」 部下には「質問責任」

それと、部下に仕事を任せるうえで、情報公開のほかにもう一つ、大切なのは「説明責任」「質問責任」です。

上司の立場からすると、ザツダンで部下一人ひとりの話を聞いて、情報公開で意思決定に必要な情報をオープンにしておく、というのは、かなり部下に「歩み寄っている」と思うんです。

僕らはほかにも、上司とのランチミーティングの費用を負担したり、飲みの席でカジュアルに語れるようにしたり、部署間をまたいだ部活動を支援したり、無記名で意見を言える機会を設けたり……さまざまな形でコミュニケーションを促してきました。

でもやっぱりそれでも、「なかなか言いたいことを言えない」みたいな意見が出てくるんですよ。「ここまでやってるのに、なんでやねん!」って(苦笑)。

ですから、会社の文化として「説明責任」と「質問責任」という言葉を浸透させたんです。部下は何か不満や不明点があれば、質問する責任があります。そして上司は聞かれたらそれを説明する責任があります、と明確にしました。上司の責任を部下にも半分転嫁したんです。

上司は別に “エスパー” じゃないんだから、部下が言ってくれないと分からない。それに万能でもありませんから、指示が不明瞭だったり、間違った認識で指示してしまったりする。

それに、部下が上司に期待しているのも「完璧な意思決定」ではないはずなんですよ。間違ってたら間違っていた、失敗したなら失敗したって、言ってほしい。そこから現場の立場で進言できることもあるはず。

役職が上になればなるほどプライドもあるし、すんなりと受け入れられないだろうけど、必要なのは「清水の舞台から飛び降りるのは、正直怖い」と弱みを見せる勇気なんです。

部下と「お互いさま」の気持ちで向き合えているか?

「ザツダン」や「説明責任と質問責任」なら、上司レベルでも取り組んでいけそうだと感じるのですが、「情報公開」となると、やはり会社としての方針が必要になってきませんか。

多くの大企業が変わらないのは、そこそこうまくいってるってことなんですよ。変える必要性を感じないから、変わらない。僕らは一時期、離職率28%という悲惨な状況に陥って、お尻に火がついたから変わることができた。変えなければならなかったんです。

会社として成果至上主義を推し進めて、優秀な人を採用して、丁寧に研修や育成プログラムを行ったにもかかわらず、彼ら彼女らは疲弊して辞めていった。その結果を招いたのは僕らでした。2005年に青野(慶久)さんが社長になって、「これ以上、人が辞めていくのはつらい。もう一度『この会社に入ってよかった』と思ってもらえるような、いい会社を目指しませんか」と話して、会社を変えることにした。そして結果的に成果が出たから続けてこられたんだと思います。

大企業でも、若い人を中心に辞める人がどんどん増えているはずです。労働人口も減っていきます。そのコストを経営者がどこまで真剣に考えているか。

業績が上がるところまでやり切れるかどうかは会社の事情次第でしょうけど、ザツダンでしっかり日常的なコミュニケーションを取って、一人ひとりが働きやすい環境を整備すること。説明責任と質問責任、情報公開で社員たちの自立を促すことで離職率が低く抑えられるほうがいいのか。それとも離職率が高く、すぐに辞めてしまう社員を補充するために採用コストをかけるほうがいいのか。検討の余地は十分にあるはずです。

上司がまず変えられることとして、部下になかなか裁量を渡せないというのは、それってやっぱり、不安だからってことなんだと思います。でも、やりようはある。

社長の青野さんが松下電工(現・パナソニック)だから、社内ではよく松下幸之助さんの言葉が出てくるのですが、「任せて任せず」という言葉があるんです。僕なりの解釈としては、任せるか任せないかの一線を決めるのは、結局「うまくいかなかったら、自分が責任をとって謝る」と腹をくくれているかどうかだと思うんです。

自分が責任を取るなら、やっぱり「任せてうまくいきそうな人」に頼みたいですよね。だから「課長に言われたから、やったんです」という人には任せないでしょう。それは逃げですから。でも逆に「お前に任せたやん」って、すべての責任を部下に押し付ける上司もひどい。それはただの「放置」です。

「自分がやります」という意志を見せた部下に対して、本気で見てあげる。「責任持ってしっかりやれよ。その代わり、うまくいかなかったら俺も謝るから」って、「お互いさま」の気持ちで向き合えるかどうかだと思います。

ただ、これも「100人100通り」で、「いや、私そこまで自信ないし、責任取りたくないです。課長の言われた通りにやりたいです」っていう部下もいるでしょう。そういう人に無理して裁量権の大きい仕事を任せるのはおかしいんです。だって、任されたくないんだから。

でもね、そういう自信のない人でも役割を与えて、その人の個性を認めて、できることを積み重ねて、「ありがとう」と言われると、少しずつ自信がついてくる。そうやって承認欲求が満たされてはじめて、自己実現欲求が湧いてくるんです。それでもっと挑戦してみようとモチベーションが上がれば、自然と成果にも結びついてくるんですよ。

会社ってなんか漠然としたものだけど、間違いなく社員一人ひとりが形作っているもの。いきなり会社を変えるのは難しくても、上司は自分の部署からカルチャーを作れるはずです。部下が失敗しても怒らずに、「失敗を共有してくれてありがとう。じゃあどうすれば次は失敗しないで済むか、一緒に考えよう」と言う。

もし上司自身の意思決定がうまくいかなかったら、「申し訳ない。今回はダメだったけど、次また協力してほしい」と謝る。そうやって心理的安全性を醸成していくことで、成果を出せるチームになっていくのではないでしょうか。

サイボウズ株式会社 取締役副社長 兼 グローバル事業本部長 兼 kintone Corporation President (サイボウズUSA社長) 山田理
大阪外国語大学卒業後、1992年日本興業銀行入行。2000年、サイボウズへ転職し、取締役として財務、人事および法務部門を担当。リストラクチャリングや人事制度の策定に精力的に取り組む。2014年US事業本部を新設、本部長に就任。同時にシリコンバレーに赴任し、現在に至る。現在はサンフランシスコに赴任中。アメリカ、アジアなど、サイボウズのグローバル展開を支える組織づくりに邁進している。著書に『最軽量のマネジメント』(サイボウズ式ブックス)

[取材・文] 大矢幸世 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭
2020/04/03

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