辞めてもサヨナラじゃない。元社員として活躍する「アルムナイ」という新しい働き方

2020/01/24
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組織の枠を超えて多様な経験をマッシュアップすることの重要性が説かれるいま、改めて「アルムナイ=同窓会」に注目が集まっています。一度は志や文化を共にした仲間との仕事は、ゼロから関係構築する場合と比べて圧倒的に「話が早い」からです。

この「辞めずに残る」のでも「辞めてサヨナラする」のでもない、「辞めつつもサヨナラしない」というアルムナイによる第三の選択肢がもたらす価値は、組織パフォーマンスを向上させたい企業だけでなく、働く個人・社会にとっても大きいと言えるでしょう。

国内インターネット企業大手のヤフーも、2017年に「モトヤフ」という会社公式の同窓会組織をつくり、そこからイノベーションにつなげようとしています。ヤフーはどんな狙いをもってモトヤフを組織し、機能させるためにどんな工夫をしているのでしょうか。責任者である徳應和典さんにお話を伺いました。

ヤフー株式会社ピープル・デベロップメント統括本部コラボレーション推進部長/オープンコラボレーションスペース「LODGE」運営責任者 徳應和典

経験豊富なOBOGと現役社員の接点の場に

モトヤフができた経緯から教えてください。

同窓会組織「モトヤフ」ができたのはヤフーが創立20周年を迎えた2016年度のこと。当時の社長の宮坂(宮坂学・現東京都副知事)が自ら発案し、設立したものです。

宮坂の前の社長、Yahoo! JAPANを創業した井上(雅博)の時代は、どちらかと言えば社員を「辞めさせないように」というベクトルが優っていました。私が入社したのも2001年で、当時はまだ社員400人くらいの規模でしたから、いまと比べてもベンチャーマインド、ファミリーマインドが強かった。

最終面接官も社長自ら務めていましたし、社長と社員の間に日常的なコミュニケーションがあったから、全社員の顔と名前が一致した状態でした。けれどもその裏表として、辞めていく社員には、寂しさからか冷たいところもあって「志を共にし、同じ釜の飯を食べていたのに。出ていくならもう知らん!」という空気が、なんとなく社内にあったと思います。

しかし、20年も歴史が続いて会社が数千人規模にまで成長すると、比例して退職者も多くなってきます。インターネット業界自体が、人材の流動性によってその発展が推進されている側面もあり、「新たなチャレンジのために」退職するという人も少なくありません。そうした人をもう受け入れないというのではなく、むしろ多様な経験をした人たちと交流することを良しとすべきではないかという空気が、経営陣が刷新されたことも契機となって生まれていきました。

ヤフー株式会社ピープル・デベロップメント統括本部コラボレーション推進部長/オープンコラボレーションスペース「LODGE」運営責任者 徳應和典

それまでのヤフーでは一度退職した人の再雇用はあり得なかったのですが、宮坂の時代になると実際に戻ってくる人も出てきて。現時点では3桁に及ぶくらいの復職者がいます。このようにカルチャー自体が変わったことが前提としてあり、その先に設立されたのがモトヤフだったと言えるでしょう。

まずカルチャーの変容があり、それに合った制度としてモトヤフができた、と。

このような組織があると、退職者同士もさることながら、まだ現役で中にいる人も退職したOBOGと関係を続けることができます。世代が異なり、直接の知り合いではなかったとしても、人を介して新たにOBOGと知り合うこともできる。社内にいただけでは、経験できることは限られてきます。現役社員の一人ひとりが経験豊富なOBOGとの交流を通じてインプットを増やしてもらうことは、その人個人にとってはもちろん、企業および経営にとってもプラス。ひいてはユーザーのためにもなるはずです。

実際にモトヤフはどのように運営されているのでしょうか?

ヤフーでモトヤフを担当しているのは、私の部下にあたる一人だけです。基本的には、モトヤフの集合体から10〜20人の幹事を年度単位で公募し、事務局として活動を推進してもらっています。コミュニケーションツールの計画、イベント企画など、具体的にどんな活動をするかはすべて事務局の自治に委ねています。

モトヤフとイマヤフ(現役社員)のみなさん

退職者がモトヤフという組織に参加するかどうかは退職者本人の意思に委ねられています。ヤフーがやっているのは、モトヤフに参加したいと申請があった方の在籍確認で、退職者記録と照合してヤフー社での在籍が確認されれば、参加を承認しています。

対象者は、原籍が弊社の正社員、契約社員、嘱託社員といった、いわゆる直接雇用関係にあった人。現時点で退職者はおおよそ5900人ほどいるのですが、そのうち1300人がモトヤフの会に登録しています。

「LODGE」との相乗効果で溶け合う境界線

現時点でどんな成果に結びついていますか?

純粋に「モトヤフ発」という意味では、明確な成果と呼べるものは残念ながらまだありません。一方で、オープンコラボレーションスペース「LODGE」との相乗効果により、その兆しのようなものは徐々に見え始めています。

もともと人事部門が窓口を務めていたモトヤフをわれわれが引き受けることになったのは、まさにLODGEとの相乗効果を狙ったものでした。LODGEの設立に込めた思いに照らした時に、「モトヤフっていいじゃん」となって。

どういうことでしょうか?

オープンコラボレーションスペース「LODGE」

LODGEができたのはヤフーが紀尾井町にオフィスを移転した2016年の秋のことです。もともとは日本初、日本一を目指すというベンチャーマインドを持った組織だったヤフーはそのころ、大企業になったがゆえに、新しいことへのチャレンジがままならない状況に陥っていました。既存サービスに紐づくユーザーを山ほど抱えていて、新しいことにチャレンジできなくなっていた。いわゆる「イノベーションのジレンマ」に陥っていたんです。

引越しの事務局長を務めた川邊(健太郎・現代表取締役社長CEO)がLODGEの設立に込めたのは、まったく異なる経験やシーズを持った外部の人と交流することにより、イノベーションにつながるようなマッシュアップを起こしたいという思い。それと同時に、ともすればサラリーマンマインドになりかけていた現役社員一人ひとりをスキルやマインドの面で啓発し、新しいものを作るための“エンジン”を社内に再開発したいという思いでした。

こうしたLODGEの設立の経緯に照らした時に、モトヤフはもともとヤフーのカルチャーを経験した人たちの集団ですから、それまでまったく縁のなかった人となにかをやるより「話が早い」。しかも、うちを退職した人の多くはその後もITに関わることをやっているケースが大半であり、シナジーが生まれやすい面もあります。こうした考えがあって、モトヤフの運営をLODGEで引き受けることになったんです。

スタートアップの中にはLODGEを定期的な活動場所として利用しているところもありますが、LODGEは基本的には自由席なので、そうした企業は毎朝場所取りに追われることになります。場所取りに追われて事業に専念できないとなれば本末転倒ですよね。

そこでヤフーとしては、事業の特異性、スケール、公共性などを鑑みて、一部の認定グループには限定席を提供しています。その中には当然、モトヤフの起業家たちも含まれている。ヤフーは副業OKなので、18時に仕事を終えた現役社員がその後、LODGEでそうしたスタートアップの手伝いをするといった形で、OBOGと現役社員との交流が進んでいます。

LODGEというリアルな場所があることで、元社員と現役社員の交流も起きている、と。

ヤフーの社員にとっては最新技術に挑戦するようなスタートアップが常時LODGEにいて、エレベーターで移動するだけでそこにジョインできるという副業のあり方が成立すると、転職せずとも最新の経験を積めることになります。

モトヤフによる展示イベントの様子

これは、その人個人のキャリアにとってもいいことですが、ヤフーとしても、なん年後かにいよいよ新しい技術にチャレンジするとなった際、そうした人に先行経験者として活躍してもらえることを意味します。社員を一人補充するにも費用がかかる。そうしたコストへのリスクヘッジになっているわけです。

あるいは、企業風土は現場が作るものであるとすると、社員が回転しすぎると変容してしまう恐れがあります。中にいながらチャレンジしてもらうことで、企業風土をキープしつつ、アップデートすることできる。これも、企業にとっての大きなメリットであると考えています。

LODGE、あるいはモトヤフが機能することにより、以前であれば退職していたかもしれない人がそのままヤフーで働き続けることにもつながるんですね。

そうなんです。ただし、退職者が減ったとか復職者が増えたとかはあくまで副産物だと思っています。アルムナイができたことにより、会社を辞めることが今生の別れではなくなった。その結果、境界が曖昧になり、浸透圧が低くなったと言いますか。組織の内にいるか外にいるかは関係なく、動機があれば接触しやすく、そして組みやすくなっている。そのバリューを強く感じます。

ヤフー株式会社ピープル・デベロップメント統括本部コラボレーション推進部長/オープンコラボレーションスペース「LODGE」運営責任者 徳應和典

私はもともとデザイナーで、LODGEを任されるまでは開発部門の責任者でした。採用面接官もやっていたのですが、その際に大切にしていたのは、面接とは対等なマッチングの話であって、会社=採る側、個人=採られる側ではないというスタンスです。企業と個人はあくまでフラットな関係にある。その志が門戸開放の風土となり、モトヤフという制度も作られたのだと思っています。

企業は営利事業、財を成すという性質上、なにかしらの権利をもっていると錯覚しがちです。だから社員を囲う、権限を制限するという発想になる。ですが、その錯覚にとらわれていると、実は世の中のマジョリティから孤立していくことが起き得ます。すると当然、自ずとマーケットからも遅れをとることになる。こうした前提に立てば、やはり組織はオープンになっていくべきなのだと思います。

個人的には、いまの「副業」という言い方にも違和感があるんです。この言葉には、いま自分たちがやっていることこそが「主」であり、それ以外は「副」であるという考えが見え隠れしますから。これは完全に企業側の論理ですよね? 個人の視点で考えれば、仮に自分が食い扶持にできる手段が複数あるとしたら、その比率は本来、実に多様であっていい。10:0で一つのことに専念する人もいれば、4:3:3の人も、1が10個並ぶ人もいていいはずです。

ヤフー株式会社ピープル・デベロップメント統括本部コラボレーション推進部長/オープンコラボレーションスペース「LODGE」運営責任者 徳應和典

ヤフーはまだそこまで行っていません。「主」としての雇用があり、副業もそれを妨げないところと定めています。ヤフーが変わるのか、それより先に世の中全体が変わっていくのかはわからないですが、将来的には個人と法人の関係性がさらに変わっていく可能性も大いにあると思っています。

仕組み化によりいかに自走できる組織にするか

ここまでご説明いただいたようなアルムナイのメリットには共感する方が多いと思うのですが、実際に運営する上で、アルムナイを機能させるポイントはどこにありますか?

アルムナイの運営は事務局に参加しているみなさんそれぞれに本業がある中でボランタリーに推進してくださっています。当然、多くの時間を割けるわけではありません。一方で、ヤフーとしても事業優先になる難しさがある。そう考えると、人手を介さなくても維持、自走できる仕組みがあることが大切になってきます。

モトヤフが機能し始めたのは、Facebookグループをつくったところから。あとから退職した若い世代の人たちにも情報が伝わるようになり、彼ら彼女らも参画しやすくなりました。

もともとの事務局は、当時の経営陣から頼まれて幹事を引き受けたという意味では受動的だったわけで、本業に忙しい中、具体的な「Do」の部分の推進に限界がありました。いまは主体的に参画した人が事務局を運営しているので、定例会で出てくるものも単なるアイデアに終わらずに、具体的な実行に向けたエネルギーが感じられるようになっています。

情報伝達手段の変更は小さなことのようですが、うまく使うことでコミュニティのエネルギーにもつなげられるんですね。

長く続けて世代が変われば、最適なツールも変わります。いまどきの若い世代はFacebookより他のSNSを利用する傾向もあり、いつまでもFacebookだけの運用では限界がきます。そこで、若い世代のモトヤフの提案により、セカンドツールとして公認のモトヤフSlackの運用も始まっています。このように、退職者の世代の変化に応じて、コミュニケーションの主戦場を変えることも大切だと考えています。

今後は、さらにつながりを促進するための新たなツールを作ることも考えています。具体的には、卒業生一人ひとりが現在チャレンジしていることなどをデータベースにまとめて、管理していく。これまでは、自分が必要としている、あるいは会いたいと思う人と新たに出会うためには人づてに紹介してもらう以外にありませんでした。データベースを検索することで自ら探せるようになれば、これまでなかったつながりも生まれるはずです。

このようなシステム化により、「人に頼って」というボトルネックを解消し、コミュニティをより自走できるものにしていくことは、今後も追求していきたいと考えています。

ヤフー株式会社ピープル・デベロップメント統括本部コラボレーション推進部長/オープンコラボレーションスペース「LODGE」運営責任者 徳應和典

ヤフー株式会社ピープル・デベロップメント統括本部コラボレーション推進部長/オープンコラボレーションスペース「LODGE」運営責任者 徳應和典
2001年ヤフー入社。法人ソリューション、家電向けwebサービスのデザイナー、開発部門の制作部長を経て、2013年よりオウンドメディア室長。2018年4月よりLODGE運営に参画。10月よりコラボレーション推進部長着任、現職。

[取材・文] 鈴木陸夫 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭
2020/01/24

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