目先の成果か、持続的な成長か・・・ マネジャーが「短期 vs 長期のジレンマ」を乗り越えるヒント

2020/01/14
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マッキンゼーが2017年に発表したレポートによると、過去15年間のアメリカの上場企業600社余りを分析した結果、

成長戦略を長期的な観点で考えるCEOがいる企業は、平均的な企業と比較して47%増の売上を記録し、36%高い収益を得られた。けれども、長期的な観点を持つ企業の割合は、わずか5%以下

だったと言います。多くの企業は、四半期ごとの決算に一定の収益を確保するような短期目標に傾倒してしまいがちです。

一方で、最近ではSDGsへの取り組みを明確に掲げる企業や、ESG投資を行う投資家も増え、長期的な観点を持ったうえで、持続可能性を追求する経営のあり方に関心が寄せられています。

長期的な観点で持続可能な成長戦略に取り組むことの重要性を理解しながらも、一企業のマネジャーレベルでは、どうしても短期目標へのコミットが求められ、小手先の戦略に終始してしまう・・・・・・。そういったジレンマを抱える人も多いのではないのでしょうか。

そこで今回は、「100年続く投資信託で、300年社会に貢献する『いい会社』を応援する」ことをモットーに資産運用を行う、鎌倉投信代表取締役社長の鎌田恭幸さんに話を伺い、経営者やマネジャーが「短期 vs 長期のジレンマ」を乗り越えるカギを探ります。

鎌倉投信株式会社 代表取締役社長 鎌田恭幸

短期的利益ばかりを追求する企業は「選ばれない」

―鎌倉投信が掲げる「100年個人投資家に支持される長期投信を目指し、300年社会に貢献する企業を支援し、1000年続く持続的な社会を育みます」というスローガンは、いまの世界的な流れと照らし合わせても共感を得られるものだと感じますが、2008年創業時点ではかなり先進的なものだったのではないでしょうか。

鎌倉投信を立ち上げたのは2008年11月でしたが、世界はまさにリーマンショック直後。経済金融市場の大混乱の中でのスタートでした。投資の方向性としては「いい会社をやしましょう」を合い言葉に、価格競争で競合に勝っていくような会社ではなく、その事業そのものが社会課題を解決しようとする、持続的に社会価値を創造している会社に投資を行ってきました。

創業当初はまだ日本にような考え方は浸透していませんでしたし、もちろんSDGsという言葉もなかった。個人投資家の方々に説明会を行っても、鈍い反応でした。「人の金を使って、社会実験でもするのか」とか、「そんなので儲かるなら、とっくに誰でもやっているでしょう」と、懐疑的な声をいただいたこともありました。

けれどもここ数年で、企業にも投資にも社会性や公益性、倫理性が当然のように求められるようになってきました。そういう意味では、当社の投資についての考え方がようやく世の中に受け入れられ始めたのかもしれません。

ただ、ESG投資やSDGsといった言葉ばかりが先行して、企業にはジレンマもあるように感じます。

例えば、ESG評価に一般的に用いられるアンケート結果などのスコアで高い評価を得て、認知されるためにESGの3つの指標を意識する企業は少なくありません。そうやって形から入る企業もある一方で、あえてそういったことを標榜しないスタンスを取る企業もあります。表面的に浸透しているのは確かですが、実態は企業によってもギャップが出てきているように思います。

―そもそも、「いい会社」とはどんな会社を指しているのでしょうか。

簡単にえば、本業を通じて社会に貢献している会社です。「課題先進国」ともえる日本の社会課題を解決し、これから支えようとしていること。そして社員や顧客、取引先、株主も含めたあらゆるステークホルダーと良好な関係を長く築こうとしていること。これらが前提としてあります。そのうえで、鎌倉投信は主に「人」:人の強みを活かす会社、「共生」:循環型社会を創造する会社、「匠」オンリーワンの技術やサービスを持っている会社、の3つの評価軸を独自の視点で定めて選定しています。

一方、ESG投資では通常、200300もの項目をもとにスコアリングして会社を評価しますが、すべての分野において「いい会社」というのは難しいと考えています。大企業でも網羅的にESG、SDGsすべてを満たすのは難しいでしょう。ですから、社員の働き方やモチベーション、多様性、持続可能性など、自社がどの領域で何を解決しようとしているのかを明確にし、それによって何らかの社会価値の創造につながっていればいいと思います。ペーパーテストで網羅的に「オール5」を目指すのではなく、あくまで会社としての個性が大切ですから。

いま、当社では70の会社に投資していますが、そういった意味では、それぞれに特徴があり、結果として、1社ですべてを網羅するのではなく、ポートフォリオ全体としてバランスのある広がりを持って社会に貢献しているのだと思います。

―企業として経済活動をしている以上、多くの会社が四半期ごとに決算を発表し、マネジャーや社員には利益を追求することが求められます。「いい会社」を目指すことが、短期的に何らかの影響を与えるかどうか、先ほどおっしゃられたように懐疑的に見る人も、まだまだ多いように感じます。

最近は、以前のようにとにかくコストカットやリストラを進めて、利益を出して報酬を得るような経営者は少なくなってきたように思います。確かに、短期的には付加価値を創造し、株主に利益を配分しなければならないけど、それで誰か他のステークホルダーにしわ寄せがくような組織は成り立たなくなってきと思います

顧客に選ばれなくなってきたのもありますし、働く人の意識もそうですよね。当社に来年度に入社する新卒社員の中には、大企業を蹴ってうちを選んでくれた人もい。そこには当然、リスクもありながら、社会的な使命感や大切にしているものを考えたのでしょう。投資先にも小規模な会社は多いですが、そういった企業に就職しようと考える人たちは、社会的名声や処遇ではなく、もっと別の価値を大切にしているのだろうと思います。

鎌倉投信株式会社 代表取締役社長 鎌田恭幸

―特にミレニアル世代やZ世代はそれが顕著ですね。

振り返ってみれば、2011年の東日本大震災は、人がこれからどう生きるか。何が幸せなのか、喚起させられた大きな出来事でした。

物質的価値、金銭的価値が一巡して、人が本当に喜ぶもの、価値を感じるものでなければ売れなくなってきている。しかも何を価値に感じるかは人によってさまざまで、SNSを通じて考えを表現する機会が増え、働き方、生き方の選択肢も多様化しています。人はどう暮らし、どう働き、どう生きるべきなのかを深く自分に問いかけるようになったのです。

一方で大企業の場合、事業が多角化してくると、そもそも何をやる会社なのか、経営理念やビジョン、ミッションを掲げていても、事業としてどんな意義があるのか、社員からはどうしても見えにくくなりますよね。そこが大企業の精神的、構造的ジレンマだと思います。

例えば、経団連に入っているような名だたる会社の役員の研修で講演すると、みなさん聡明で、立派なんですよ。会社として「こういうことを目指している」といった目標は明確なのですが、「それはなんのためにやるんですか」と問いかけると、「海外マーケットを拡大するため」「世の中のニーズとしてこういったものがあるから」といった理由は出てくるのですが、ひとりの人間として・・・・・・A社というプラットフォームを通じて自分はどうありたいのか、という視点が、ストンと抜け落ちているのです。

結局のところ、ひとりの人間として、価値観のようなもの腹落ちしていなければ、目先の収益や数字に踊らされてしまう。自分は本来、どうありたいのか、なんのためにこの会社に入ったのかと、「個」を立てるプロセスがなければ、会社に使われるだけ使われて、定年になったら丸裸にされてしまうことになるのです。

鎌倉投信株式会社 代表取締役社長 鎌田恭幸

300年続く長期的企業に備わる「健全な危機感」

―大企業に勤めるマネジャーが構造的ジレンマを克服するにはどうすればいいでしょうか。

技術的イノベーションや効率性の向上など、本来日本が得意としてきたやり方では、競合に真似されてしまう可能性があります。改めて原点に立ち返って、自社の存在価値や潜在ニーズを形にして、モノやサービスを考えなければなりません。

これまで日本はモノづくりを中心に産業が発展し、その後、金融や情報産業が力を持つようになりました。そのため、モノづくりの考え方がベースとなり、いかに効率的に安く高品質なモノを生み出すか、技術を進化させることが重要でした。

けれどもいま、求められているのは「思考のイノベーション」です。トヨタも最近、「自動車をつくる会社からモビリティ・カンパニーにモデルチェンジする」と宣言しましたが、それも一例ですよね。自動車としての性能や燃費、乗り心地をより良くするだけでなく、移動そのものを再定義して、移動手段としていかに体験価値を提供するかが重要になってきます。「思考のイノベーション力」が問われるようになると、ますます原点に立ち返ることが大切になるのです。

―自社の強みとは何かを改めて考え、その本質を捉える、ということですね。

鎌倉投信株式会社 代表取締役社長 鎌田恭幸

ある経営者が「自動車産業のこれからを考えたとき、自動運転はすでに実証段階にていて、遠くない未来に実現する。そしてAIの技術が進化すると、概念的には自動車はむしろ、携帯電話のようなスマートデバイスに近づくのではないか」と言っていました。自動車をいまの自動車と同様のものとして捉えていたら、おそらく産業はなくなっていくでしょう。

この10年で、自動車に限らず、自転車や家、あるいは人の能力をシェアするシェアリングエコノミーが浸透しました。副業解禁だって、労働力を会社がシェアするようなものです。ある種、自分たちの産業を否定してみるというか、これまでの固定観念を外し、思考を変えたうえで、自分たちの存在意義という根底は変えず、コンテンツとしての強みをそのまま活かせるような、社会に隠れた潜在事業を掘り起こすことが重要なのです。

―ただ、マネジャーや経営層に近くなればなるほど、これまでのやり方を否定することは難しいのではないでしょうか。

確かにそうですね。理想としては、ボトムアップから彼らの意識を変えられるよう働きかけていけたらいいのですが・・・・・・構造的な問題として、変わろうとしない組織は時代についていけず、いずれ潰れてしまうでしょう。どこかで変わらざるを得ないタイミングが来るはずです。

私たちも「300年社会に貢献する企業を支援」とスローガンに掲げていますが、どの企業が300年残るのか、はっきりしたことは分かりません。そこまで生きられませんしね(苦笑)。

けれども一つえることは、いま、この瞬間にも何らかの形で変革の意識を持っている企業でなければ、残らない、ということです。外部環境の変化そのもので潰れる組織はほとんどありません。ある種の驕りや、危機感のなさがたまたま外部環境の変化で表面化して、組織を崩壊させるのです。

少なくとも潰れない組織は、基本的には「健全な危機感」を持っています。健全な危機感とはつまり、「モノやサービスは陳腐化する」という前提で常に種を蒔きつづけ、イノベーションを起こそうとしているかどうか、ということです。しかもそれは、いま取り組んでいる会社でも、10年後も20年後もやり続けられるかどうかがポイントです。

社会に貢献する企業は、社会性だけを追求するのでもダメですし、事業領域の中で常に変革していく力があり、それに必要な財務力や経営管理能力もなければならない。そうでなければ、やはり社会性は達成できないのです。

短期的視点にとらわれても「全力」で取り組めば、次につながる

―マネジャーが短期的な成果を求められながらも、長期的な観点を保つにはどうすればいいでしょうか。

社外に出て、事業を通じて社会貢献を実践する人と接点を持ったり、自分の存在を確認できる場所へ身を置いたりすることが、いい刺激になると思います。

私たちのお客さまにも大企業で管理職を務める方は数多くいますが、彼らが投資先企業の創業者の話を聞いて、感化されることもあります。つい先日も受益者総会を開いて、ベンチャー企業の経営者に登壇いただきましたが、さまざまな壁にぶつかり、それに対していかに行動するのか、その経験を踏まえた話を聞いていただく。それはきっと大企業では得られない経験だと思います。

第10回「結い2101」受益者総会

そのうえで、自分の部署の中で少しずつ変革していくとか、小さなプロジェクトから始めてみるとか、できることはあると思うのです。それがうまくいけば、スピンオフしてもっとイノベーションを広げていけばいい。

現状を変えようと努力し、最善を尽くそうとする経験は、その人の人生にきっといい影響を与えるでしょう。本当にお客様のために考えられているのか、100%、120%の力を出し切ったのか、と自分に問いかけながら、本当に大切なものは何かを考える。それがキャリアとして積み上がっていくと、自分の自信にも、次へのステップにもつながるかもしれません。

―そう考えると、いま仮に短期的な目標に左右されるような状況でも、全力で取り組むこと自体に意味があるということかもしれませんね。

私自身も起業する前に大手金融機関で20年勤めましたが、それまでは目先のことに全力を尽くしてきただけでした。長期的な視点を持てるような環境でもなかったし、それを持つ能力も、それを金銭価値に換える力もなかったかもしれない。けれども、転職とか起業とか、大きな決断をするような行動を積みあげていくと、付き合う人自体も変わって、キャリアにも次のチャンスが用意されるような感覚があるのです。

自分が本当は何をやりたいのか、なぜいまこの会社に縁があって、こんな苦労をしているのか、その意味が分かる瞬間がやって来る。そこまでやりきらなければ、分からないんですね。仕事も勉強も結局のところ、自分は何のために生まれてきたのか、何をすべきなのか、その意味に気づく過程だと思うのです。

鎌倉投信株式会社 代表取締役社長 鎌田恭幸

これを読んでくださっている方々は、一般的に見れば極めて恵まれている人たちでしょう。すごく優秀で幸運な人は、人生のかなり早いタイミングで長期なビジョンを見つけることもある。一度気づいてしまえば、どんなに苦しくても、やるんですよね。けれどもだいたいの人はそれに気づかない。人生って、そういうものなんだと思います。

―鎌田さんは、「いい会社をふやすこと」が、「やるべきだと気づいた」のですね。だからこそ、創業当初に「それで儲かるなら、誰でもやっている」と言われながらも、自分を信じてやってこられたのではないでしょうか。

我々に限った話ではありませんが、「絶対に無理」「儲からないよ」と業界の方がおっしゃるところにこそ、ブルーオーシャンがあるんですよね。企業(自社)の社会における価値を掘り下げ、社会が欲している潜在ニーズ(社会課題もその一つ)を事業化するところに収益のチャンスがあります。鎌倉投信は、そこに独自の投資尺度をもって実績を積み上げてきましたがそれが投資する企業への貢献や資産形成につながれば嬉しいです。

振り返ると、東日本大震災が起こった直後、株式市場は暴落し、経済合理性を優先させる人たちはなるべく早く資金を引き揚げようと、パニック状態になりました。けれども実は、鎌倉投信では震災発生当時、それまでの間でみれば過去最となる入金件数があったのです。2営業日で20%株価が暴落するなか、「まだ全容が分からないから直接復興支援はできないけど、なんとかいい会社を応援したい」と、半ば祈りをこめたお金を皆さまからお預かりしたのです。そういう現象が起こってはじめて、お金には本質的に『信用』が込められているんだ、と実感しました。

この10年で、本来、投資はお金儲けという経済合理性だけではなく、よりい社会をつくっていくものなんだ、そしてその結果として配当を得られるものなんだと、実感してもらえるようになってきたのではないかと思います。

鎌倉投信株式会社 代表取締役社長 鎌田恭幸

鎌倉投信株式会社 代表取締役社長 鎌田恭幸
25年以上にわたり、日系・外資系信託銀行の資産運用業務に携わる。株式等の運用、運用商品の企画、年金等の機関投資家営業等を経て、外資系信託銀行の代表取締役副社長に就任。その後、2008年11月鎌倉投信株式会社を仲間と設立。鎌倉の古民家を拠点とし、社会を真に豊かにするために100年後も活躍できる企業に投資している

[取材・文] 大矢幸世 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭
2020/01/14

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