任されたのは150サイトへのツール導入。苦しくても信じた道―小川卓さん

2019/12/17
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PROFILE
小川卓さん
株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役

ウェブアナリストとしてマイクロソフト、ウェブマネー、リクルート、サイバーエージェント、アマゾンジャパンなどで勤務後、独立。ウェブサイトのKPI設計、分析、改善を得意とする。ブログ「Real Analytics」を2008年より運営。全国各地での講演は500回を突破。HAPPY ANALYTICS代表取締役、デジタルハリウッド大学院客員教授、株式会社UNCOVER TRUTH CAO、株式会社Faber Company CAO、株式会社日本ビジネスプレス CAO、SoZo株式会社 最高分析責任者、ニフティライフスタイル 社外取締役を現任。ウェブ解析士協会顧問、ウェブ解析士マスター。著書に『入門 ウェブ分析論』(SBクリエイティブ)、『現場のプロがやさしく書いたWebサイトの分析・改善の教科書』(マイナビ出版)、『あなたのアクセスはいつも誰かに見られている』(扶桑社)など多数。

CAO(Chief Analytics Officer)というポジションをご存じでしょうか。ウェブサイトのアクセス解析や改善を統括する役職として、近年ではビッグデータ活用の文脈でも注目されています。この分野の黎明期から活動し、第一人者としてのキャリアを築いてきたのが小川卓さん。表側からはなかなか見えづらい仕事のようにも感じますが、小川さん自身は「自分が作ったものをたくさんの人に見てもらいたい」という欲求からアクセス解析にのめり込んでいったと話します。その原体験となった数々の出会いを、若手時代の苦労も交えて語っていただきました。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん キャリアストーリー

この仕事は、誰かの役に立っているのか?

私は今、「ウェブアナリスト」「アクセス解析の専門家」として自身の会社を持ち、同時にさまざまな企業でCAO(Chief Analytics Officer)を務めています。でも、キャリアの入り口からゴリゴリと分析をやっていたわけではないんです。大学院で学んでいたのは化学で、統計学の知識もありませんでした。

そんな私がアクセス解析と出会ったきっかけは、2004年、最初の転職をしたウェブマネーでの仕事です。プリペイド型の電子マネー「WebMoney」を開発し、普及させた会社ですね。

私に与えられた仕事は、電子マネーの認知度を高めるために自社のサイトへ集客すること。そのためにゲーム関連のメルマガを運営していました。『ファイナルファンタジーⅪ』や『信長の野望 Online』といった人気ゲームを紹介しながら、ウェブサイトに来てもらうことで「WebMoneyはゲーム以外にも使いみちがあるんだよ」ということを伝えていたわけです。

日々ゲーム会社やゲームショウを取材したり、文章を書いたり。ある意味では、メルマガコンテンツの制作は地道な仕事です。それを2年以上続けました。私自身ゲームが好きで、取材や執筆に積極的に取り組めるという意味では向いていたのですが、やがて「この仕事にどんな意味があるんだろう?」と考えるようになりました。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん

メルマガのコンテンツを一生懸命作って配信しても、それが誰かの役に立っているのか、喜ばれているのかは分からない。仕事そのものは楽しいんだけど、自分だけがそう思っていても意味がないんじゃないか……。

ぼんやりとした疑問を抱えていました。そんなときに、世の中に出始めていた「アクセス解析ツール」の存在を知ったんです。

それまでは、自分の仕事がうまくいっているのかどうか、まったく分かりませんでした。まだGoogle Analyticsなんてものは存在せず、上司もマーケティングに詳しいわけではありません。当時は目標設定すらもされていませんでした。私自身、仮説立てして実行して改善するといった方法論もなく、とりあえず新しいことをやり続けるという状況でした。

そんな日々が、アクセス解析ツールを使うことで一変しました。私が使ったのは、当時は片手で数えるほどしかなかった有料ツールの一つである「Visionalist」です。

「メルマガの効果を測れるんだ!」
「メール件名によってこんなにも反応が違うんだ!」
「自分が作った企画をこんな人たちが見てくれるんだ!」

純粋な驚きの連続でした。

その頃にアクセス解析と出会わず、メルマガ配信の仕事だけを続けていたら、今の私はなかったと思います。ゲームショウの取材を重ねて専門性を高め、ライターになっていたかもしれません。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん

インターネットがもたらしてくれた出会い

アクセス解析にはまっていったのは、「自分が作ったものをたくさんの人に見てもらいたい」という、ある種の自己顕示欲があったからだと思います。

初めて自分でウェブサイトを作ったのは高校生の頃でした。その頃から、サイトが他の人に見られているのかをいつも気にしていましたね。

私は学生時代のほとんどを海外で過ごしていて、中学3年生の夏からロンドン大学を卒業するまでは、ずっとイギリスで生活していました。中学の修学旅行に行けず、日本の友だちと離ればなれになってしまったことが残念だったのでしょう。渡英後もしばらくは手紙のやり取りを続けました。

毎年、夏には一時帰国していましたが、そのたびに日本の流行りは変わっていました。ある年は「たまごっち」が大ブーム。翌年はみんなが「だんご3兄弟」を歌っている。そんなトレンドを知るためにも、どうにかして日本との接点を保とうとしていたんです。

とはいえ、手間のかかる手紙のやり取りは長くは続きません。そんなときに出会ったのがインターネットでした。書店で専門書を購入し、見よう見まねでHTMLを書いてアニメや小説に関連するサイトを作り、それをベースに日本の人と交流していました。

最初は細々とページを更新するだけでしたが、やがて「もっと多くの人に見てもらいたい」と思うようになりました。それで、自分のサイトへの来訪者数を知るために、当時いろいろなサイトに表示されていたカウンターを付けました。「あなたは○番目の訪問者です」というやつです。

実を言うと、妻との出会いもインターネットなんです。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん

大学生の頃、私が運営していたサイトの掲示板に妻が書き込んでくれたことがきっかけでした。リアルな場で初めて会ったのは、夏に一時帰国して開いたオフ会です。今ではネットで知り合うことも珍しくなくなりましたが、当時としては奇跡的な出会い方だったと思います。

だから私は、インターネットに心から感謝しています。

化学を学んでいたのに就職でIT系へ進んだのは、その喜びの原体験があったから。いよいよ本格的なIT時代がやってくるという希望を胸に社会へ出ました。

「これはやってらんねぇぞ」という葛藤を超えて

「アクセス解析を自分の道にしよう」

そう思うようになったのは、リクルートへ転職した頃だったと記憶しています。

自分自身の仕事が誰かの役に立っているのか、喜んでもらえているのかを、数字とデータで見ることができる。これほど自分に向いているポジションはないと考えました。転職を考えたのも、電子マネーの世界だけでなく、もっと大勢の人が使うサイトの仕事を経験して、純粋にアクセス解析の可能性を追求してみたかったからです。

リクルートへ面接に行くと、ちょっとした奇跡が起きました。当時リクルートが導入していたアクセス解析ツールは、私がウェブマネー時代から使っていた「Visionalist」だったんです。私は完全に「解析ツール採用」。ラッキーでした(笑)。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん

2006年当時、リクルートのサービスの多くでネット化が進められていました。私は解析チームのメンバーとしてVisionalistの運用支援を担当し、新しいサイトを立ち上げる際にサポートしたり、当時Visionalistを開発していたデジタルフォレスト社とともにツール改善を進めたりしていました。

ところが、リクルートのサービス規模が拡大するにつれて、徐々にハード面での限界も現れるようになっていきました。そこで新しいツールへのリプレイスを進めていくことになりました。グループ全体に関わることでもあり、リプレイスにあたって必要な決裁額はおよそ数億円。リクルート本体の社長決裁を取る必要がありました。

「数億円のツールを入れたらいくら儲かるの?」
「いや、それは分かりません」

そんなやり取りを半年くらいは続けていたと思います。いかにも大企業サラリーマンといった苦労を経験しました。あれは大変だった。

何とか導入が決まってからは、2年をかけて150サイトへのリプレイスを進めました。毎週1サイトをリプレイスしても間に合わないペースです。導入担当は私と後輩メンバーの2人だけ。そこへツール側のコンサルタントにも加わってもらい、月2回のペースで社内勉強会を開き、2年間で約600人にツールの使い方を教えました。

同時に、各部署からの問い合わせにも対応していました。どんな質問が来ていたと思いますか? いちばん多いのは「パスワードを忘れちゃった」というもの。次に多いのは「なんかデータがおかしい」とか「なんか数字が合わない」といった漠然としたもの。

そうした問い合わせが毎日山のように寄せられるので、「これはやってらんねぇぞ」と思っていたんですよね(笑)。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん

今でこそ打ち明けられるのですが、そのときはレンタルサーバの「さくらインターネット」を使って、問い合わせ受付用のサイトを作りました。電話で「あなたはどこのサイトの人ですか?」「どの数字に問題があるんですか?」と一つひとつ確認するのは膨大な手間がかかりますから。そのサイトには勉強会資料などもアップして、何とか問い合わせ対応の工数を削減しました。

そんなふうに苦労も多かったのですが、リクルートで実際のサイト運営の現場と関わり、アクセス解析ツール運用の裏側を見ることができたのは、私にとって貴重な経験となりました。

当時の自分が苦しんでいた理由を、すべて外部要因のせいにすることもできたと思います。「ツール側の改善が遅い」とか、「運用側のリテラシーが足りない」とか。実際にそうしそうにもなりました。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん

それでも、「これは自分がやるべきだろうな」と思ってやり続けました。150ものサイトに関わるユーザーやクライアント、そして社内のメンバー、みんなを幸せにするためには、サイトの解析がうまくできない状況を変えなければいけないと思っていました。アクセス解析が大好きで、それを自分の道にしようと決意して私はその場にいたわけですから。どんなに苦労をしても、投げ出して辞めてしまうという選択肢は頭に浮かびませんでした。

その一方では、自分自身が分析に関われないもどかしさも感じ始めていました。解析ツールの設定や運用のお手伝い、勉強会はするけど、自分が直接分析に携わるわけではありません。設定や設計をしても、自分で結果を見られるわけではありません。

自身のブログ「Real Analytics」を立ち上げたのはそんな思いからでした。そしてこのブログが、私のキャリアにおける大きな転機を呼び込んでくれることになります。

後編はこちら

[編集・取材・文] 多田慎介 [撮影] 稲田礼子
2019/12/17

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