成功体験に縛られないのは「外のものさし」を持ち続けているから―澤円さん

2019/12/06
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PROFILE
澤円さん
株式会社圓窓 代表取締役

株式会社圓窓 代表取締役、外資系大手IT企業 業務執行役員、琉球大学 客員教授。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年に大手外資系IT企業へ転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。最新のITテクノロジーに関する情報発信の役割を担う。2006年よりマネジメントに職掌を転換し、ピープルマネジメントを行うようになる。直属の部下のマネジメントだけではなく、社内外の人たちのメンタリングも幅広く手掛けている。数多くのイベントに登壇し、プレゼンテーションに関して毎回高い評価を獲得。2015年よりサイバー犯罪に関する対応チームにも参加。2019年10月10日より、株式会社圓窓 代表取締役就任。企業に属しながら個人でも活動を行う「複業」のロールモデルとなるべく活動中。
Twitter:MADOKA SAWA / 澤 円(@madoka510

前編はこちら

数々のスタートアップを支援し、外資系大手IT企業の役員としてもテクノロジー業界の最前線に立つ澤円さん。イベント登壇は数しれず、グローバル規模のアワードも獲得し、いつしか「プレゼンテーションの神」「伝説のマネジャー」と呼ばれるようになりました。ご自身の代名詞となっているそれらの称号を、澤さんはどうやって手に入れてきたのでしょうか。その過程においては「『ここが自分のピークかもしれない』と思い始めた時期があった」と打ち明けます。順風満帆に思えるプレイヤーとしてのキャリアにあえて別れを告げてマネジメントの道へ。その決断は、パラレルキャリアを実践する現在の姿にもつながっていました。

株式会社圓窓 代表取締役 澤円さん キャリアストーリー

ドブに落ちるような苦しみから立ち直った、ある顧客との出会い

インターネットとの出会いによって知的好奇心が刺激され、最新知見を取り入れながら成長を続けていると感じていた20代の終わり頃。

あるイベントで知り合った転職エージェントの紹介で、現在の外資系大手IT企業に移ることになりました。でもこの転職によって、僕はドブに落ちるような苦しみを味わうことになりました。何しろ周りはこれまでに会ったこともないようなすごい人たちばかり。自分の技術や知識が通用せず、1997(平成9)年の入社からしばらくの間は、実力不足を痛感してしんどい時期を過ごしていました。

誰かの役に立つことで喜びを感じられる自分に与えられた仕事はITコンサルタント。最新の情報を駆使して顧客の課題を解決するミッションは、自分にぴったりのはずなのに……。

そんな鬱屈とした日々を変えてくれたのは、顧客として出会った大手食品会社のカゴメさんでした。入社から3年目に、あの大企業の社内情報共有システムを根こそぎ入れ替えるというプロジェクトを担当させてもらえることになったのです。

現在でもお付き合いがありますが、そのときのカゴメの担当者さんは本当に、ものすごくいい方でした。僕には実績がなく、教科書となる前例もほとんどないプロジェクトに予算をしっかり確保してくれました。

実績がないとはいえ、必死で調べて勉強すれば、ヒントやピースは見つかります。それらを研究して持っていき、毎回全弾放出して帰ってくるという日々が続きました。先方はそうした知見の一つひとつを喜んでくれました。

当時は何をやるにしても時間がかかりました。パソコンだって、今みたいに立ち上げてすぐ起動するわけではありません。徹夜することも珍しくはありませんでした。それでも、「この情報を持っていけば喜んでもらえる」ということが分かっていたからやれたのだと思います。

うれしくて、忘れられないエピソードもあります。

プロジェクトが進み、いよいよOSを入れ替えて動かした本番の日のこと。カゴメの担当者さんのもとに、社内から問い合わせが入ったそうです。

「メールを送る際に、前のシステムのときは送信トレイに入って出ていくまで時間がかかっていた。新しいシステムでは送信ボタンを押すとすぐに送信済みになるけど、本当に送れているのだろうか」

このスピードが新たなシステムによる恩恵だということが分かると、担当者さんは社内から深く感謝されたとのこと。僕には、

「メールを送れたことで『ありがとう』なんて、言われたことがありません。こんな体験をさせてくれてありがとうございます」

と感謝してくださったのでした。

株式会社圓窓 代表取締役 澤円さん

うぬぼれるほどは能力がないことを自分で分かっていた

大切な顧客が、僕を通じて得られる知識を喜んでくれた。それは強烈な成功体験となりました。カゴメの担当者さんをはじめ、いろいろな人に紹介していただくことにもなり、社名ではなく個人名で仕事ができるようになりました。

転職してからは優秀な人たちに囲まれて埋没していた自分が、競合他社の製品を研究してアウトプットを繰り返しているうちに、「この競合からの移行だったら澤に聞け」と言われるほどの社内ブランディングもできあがっていきました。

やがて外部の講演にも呼ばれるようになり、社内では2006年にグローバル規模のアワードで表彰されるという栄誉にも授かりました。「プレゼンテーションの神」と言われるようになったのもこの頃から。こうした経歴はよく外部メディアにも取り上げていただいているので、澤円のイメージとして記憶してくださっている方も多いかもしれません。

はたから見れば順風満帆に写るでしょうか。でも、その頃の僕は、「ここが自分のピークかもしれない」と思い始めていました。

自分より技術的に優れている人や、魅力的なプレゼンをできる人がたくさんいることは分かっていました。元来僕は、自己肯定感が高いタイプではありません。昔から自分のできないことばかりに目が行くほうだったし、うぬぼれるほどは能力がないことを自分で分かっています。

「僕、何だかバブっているなぁ」という感覚さえあったほど。

今の状況にしがみつくことは、カッコ悪いと思いました。だから僕は、コンサルタントからマネジメントに職掌を転換することに決めました。

僕が所属する会社では、一定のジョブランクに達することでマネジャーとなる資格が与えられます。それまでに積み重ねた成果によって、すでに僕にはマネジャーになるという選択肢が与えられていました。

このまま行くと、自分はプレイヤーとしての成功体験を引きずってしまうかもしれない。その成功体験はいつしか陳腐化して、「誰かの役に立つことで喜びを感じる」という仕事ができなくなってしまうかもしれない。

これからはマネジャー道に挑み、集中しよう。そう決めたことを当時の上司に伝えると、「良い判断だと思う」と背中を押してくれました。

株式会社圓窓 代表取締役 澤円さん

会社員は辞めないけど、パラレルキャリアはこれからも加速していくはず

もし僕が自己肯定感の高いキャラクターだったら、その後のキャリアは今とはまったく違う展開になっていたかもしれません。「澤さんって、すごいキャリアですね」と人から言われるたびに気持ちよくなり、陳腐化していく自分に気づかずに過ごしているのかも……。

マネジャー道に集中すると決めてからも、壁はいくつもありました。営業部門のマネジメントは特にしんどい立場でした。実は僕は元来、数字というものに興味を持てないんですよ。そんな自分が管掌する営業部門なんて、振り返ってみても空恐ろしい感じがします。

周囲のマネジャー陣の得意分野の力を借り、自分も得意分野で借りを返しながらどうにか乗り越えてきました。そうした経験の一つひとつが、やはり現在の自分を形作っています。マネジメントそのものは大好きな仕事の一分野となり、みんなに「一度は経験しておいたほうがいいよ」と勧めるまでになりました。

もう一つ、その後の僕が意識して取り組んでいることがあります。それは積極的に外部と関わり、「外のものさしを持つ」こと。

数々のスタートアップのメンターや大学客員教授、そしてつい最近法人化を果たした「圓窓」での活動など、会社以外の顔を持ってさまざまな領域に絡んでいます。

所属している会社が世界的に名の通った有名企業でも、自分の実力は別ですよね。社内だけで自分と他者を比較し、「俺はイケてるな」と思うのも何だか痛い。当たり前のことかもしれませんが、それを忘れないようにしたいのです。そのためには社外の人と関わり、外のものさしを持ち続けることが大切だと思っています。

今の会社は大好きだし、最新技術を追いかけられる環境も自分には欠かせません。だから会社員を辞めるつもりはまったくないのですが、僕のパラレルキャリアはこれからもますます加速していくはず。

何より、自分が面白いと思うことには素直に飛びつきたいじゃないですか。面白いと思うことを素直にやっていく人生では、お金を稼ぐための「ライスワーク」をしなきゃいけないこともあるかもしれません。一方では、自分が思ってもみなかった人脈やキャリアを手に入れられるかもしれない。面白いと思うことにどれだけ時間を割けるかが勝負です。

そのためには、現状の中で「やめること」を決める必要もあるでしょう。やめることを決めれば、それだけ時間が生まれます。僕はメールも電話も出勤もやめました。今ではリアルな場でのチームミーティングもしません。

誰かの役に立つという、僕自身の「ありたい姿」を実現し続けるためにも、僕は面白いと思うことに飛びつき続けていくのだと思います。

株式会社圓窓 代表取締役 澤円さん

 

 

澤円さんに聞いた“キャリア形成で大切なこと”

自分が面白いと思うことをやればいい!

 

[編集・取材・文] 多田慎介 [撮影] 稲田礼子
2019/12/06

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